第9話 虚言は真実でないばかりか、つねにそのうちに争いを持っている

 目が覚めるとそこには見覚えの…ある天井が広がっていた。俺の部屋の天井だ。


 身体を起こして周りを見渡しても至って変なところはない。ふと時計を見てみると夜中の三時になっていた。

 おかしい、舞に喜んでもらうためにケーキを買ってきて二人で食べようとしていたはずである。


 ケーキを食べた記憶がない、いや完食した覚えがないという方が正しいだろう。必死に記憶を探ってみる。


 確か俺は家に帰ってきてからすぐに舞にケーキを見せたはずだ。舞はとても喜んでくれてさっそく食べる雰囲気になったんだっけ。


 ケーキを切り分けて、舞がコーヒーを準備してくれて…あれ、おかしい。ここまでしか記憶がない。

 いくら記憶の引き出しをこじ開けようとしてもこれから先は開きそうにない。


 俺はベッドから身体を起こすと部屋を飛び出した。そしてそのまま一階へと向かっていると、リビングの電気がついているのを見つけた。


 どうやら誰かがいるようである。舞だろうか、舞は健康志向だからこんな夜遅くまで起きていることなんてないとは思うのだが。


 もし舞じゃなかったら一体誰なのか。想像するだけで鳥肌が止まらなくなってしまうがもし不審者であるのであれば舞を守らなくてはならないので見逃すわけにはいかない。


 丁寧に階段を下りていく。足音を立てないようにゆっくりと、ゆっくりと進んでいく。


「…ちゃん、助かっ…。ほんと…あ…とうね」


「……………………はい…」


 舞の声だ。だがもう一人、誰かがいるらしい。聞き覚えのある声だ。嫌な予感がするのは気のせいではないと思う。

 まさか舞と接触を図ったのか。もしそうだとしたら相当厄介だ。


 今、リビングにいくのは避けておいた方がいいだろう。明日の朝に舞に話を聞くのが最適解だ。


 朝まで眠ろう。







 朝になると何も変わったところはなかった。舞はいつも通り美味しい朝食を作ってくれていたし、違和感もなかった。葉月となにかしらあったのであれば、別れたと知っている舞ならば俺に報告するはずだ。


 昨日のあれは夢だったのだろうか。


 学校に行くとクラスも何も変わっていなかった。そりゃそうだ、俺と葉月との関係はクラスには関係ないのだから。


 昨日先輩が言っていた別れたという噂、あの噂は既に本当のことだという話になっていた。

 原因は先輩が皆に吹聴して回ったというわけではない。先輩はそんなことする人ではないと分かっているし、そもそもの原因が既に分かっているからだ。


 葉月が事実を認めたらしい。さっきは何も変わってないと言ったが、唯一の変化をあげるとするならば葉月が登校していたことだ。


 葉月は俺が登校した時には既に教室にいて、いつメンと絡んでいた。その中にはこの前俺に話しかけてきた音無さんの姿もあり、ワイワイガヤガヤと盛り上がっている。


 やはり葉月はすごい人らしい。だって昨日まであんなに静かだったクラスが、彼女が登校しただけで180度変わるんだからな。


 改めて葉月と別れたのは間違いではなかったと再確認できた。たまに考えてしまうのだ。釣り合うとか考えずに別れたかったらと。


 俺が教室についてから葉月がこちらに接近しようという素振りは見えない。自意識過剰だろうか、これだと俺が未練たらたらみたいになってしまうではないか。


 もう意識しないようにしようとしたとき、おもむろに立ちあがった葉月が言った。


「ちょっと皆聞いてくれるかな?私と真翔は別れたとは言ったけど、昨日驚きの事実が発覚したんだ。私、妊娠したみたいなの」

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