閑話 事物の外観は偽りに満ちている
兄さん、すみません。
でもまさかこんなに早く効果が出るなんて思ってはいなかったです。葉月さんが渡してきた睡眠薬。
葉月さんは効果がとても弱いものだと言っていたけど、どうやら嘘をつかれたらしい。葉月さんは一体何を考えているのだろうか。
数時間前、私が部活を終え下校していると一件のラインが送られてきていることに気づき、内容を見ると鳥肌が立つものだった。
だって葉月さんから兄さんへの愛をつらつらと語った長文が送られてきていたからだ。
最後に一文には「お家で待ってる」と書かれていた。
葉月さんとは仲が良く、よく兄さんのことを惚気られた記憶がある。葉月さんは兄さんのことが大好きだった。
いや、あの長文に読むに今も大好きなんだろう。
私はふと兄さんのことが心配になってしまった。このまま放置したままでいると兄さんの身に何か災いが降りかかる気がして仕方なかった。
でもだからといって葉月さんのラインを無視するわけにもいかない。葉月さんとはこれからも関係を持っていたいし、兄さんの身も案じての判断だ。
急いで家に帰るとライン通り葉月さんが不気味な笑みを浮かべて立っていた。手には何が入っているか分からないビニール袋を抱えており、その瞬間に私に嫌な予感が走った。
「久しぶりね舞ちゃん」
「お久しぶりです。葉月さん」
葉月さんはなにか興奮している様子だった。頬が紅潮しており、今まで見たこともないくらいメスの顔をしている。葉月さんってこんな顔するんだ、ってその時は思った。
「真翔から話は聞いてるかな?」
「話ですか?」
「うん」
「何の話でしょうか?」
「言葉に出すのは癪だけど、別れ話のことだよ」
やっぱり葉月さんはこのことについて要件があるようだった。葉月さんが兄さんのことを愛しているのは日頃の彼女を見ればわかることだ。
きっと葉月さんは被害者なんだろう。兄さんは昔から後先考えず行動する癖がある。
自分では相手のことを考えて行動した、と言ってはいるが正解だった試しがないためそろそろ学んでほしいと思っている。
私は兄さんのことが大好きではあるが、そういうちょっとおバカなところは正直あまり好きではない。出来ることならば今すぐにでも直してほしいところだ。
「聞いていますよ。きっと兄さんが葉月さんの話をまったく聞かずに勝手に行動した結果ですよね?」
「さすが舞ちゃん。真翔のこと私の次に分かってるね。話が分かってくれる人がいるの助かる」
私は葉月さんのその言葉にちょっとムスっとしてしまう。だって私は兄さんと生まれた時から一緒にいるのだ。兄さんのことで知らないことと言ったら、兄さんが生まれてから私が生まれるまでの数年間だけである。
私は世界で一番兄さんのことを知っていると自負があった。でも葉月さんに反抗するような真似をとるのはやめておいた。
「でも兄さん、そうなっちゃうと頑固ですよ。いくら正攻法でいっても無駄だと思います」
「そんなこと私だって分かってる。だから正攻法じゃない方法をとるから、舞ちゃん協力して?」
「…」
「まさか断るなんて言わないよね?舞ちゃんも私と真翔の幸せを願ってるでしょ?真翔を幸せに出来るのは私だけなのにあいつも本当に馬鹿だよね」
ムスっ。
私には察することは容易だった。葉月さんはどうやら病んでしまったらしい。兄さんの愚かな行動で、あの優しかった葉月さんは影をひそめてしまったらしい。
やはりこのまま葉月さんに自由にさせておけば兄さんが危ない。でも今、私が誘いを断ってしまったらますます酷い結果が待っているだろう。
前までは葉月さんと兄さんの幸せを願っていた。でも今、この瞬間に変わった。
待っててね兄さん。絶対に救い出してあげるから、もう少しだけ耐えて。
☆☆☆
舞ちゃんから連絡が来た。
どうやらしっかりと仕事を完遂してくれたらしい。真翔が机に突っ伏して眠っている姿がおさめられている写真が私のもとに送られてきている。
本当に、真翔は可愛いなぁ。この写真だけでデキちゃうかも♡
舞ちゃんの仕事が終わりだ。もう用済みだ。本当にありがとう、舞ちゃん。
本当に感謝してるんだ、でもあの考え方はだめだったな。まさか舞ちゃんが私を裏切るような行動を考えているなんてね。
あの顔を見れば分からないはずがない。
そうだよね、舞ちゃんはお兄ちゃん想いの妹ちゃんだもんね。彼女は気づいていないようだけど、舞ちゃんが真翔へと向けている愛は家族愛なんて薄いものじゃない。
あれは男として彼のことを愛している女の顔だ。私が敏感だから、気づいちゃうのも仕方がないことなんだ。
許してね、舞ちゃん。
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