第8話 協力とは愛や友情と同じく、与えることで得られるものである
葉月はそう言って俺の方を指さした。正しくは俺の後ろ側にある美味しそうなケーキを指さしているようで、とても美味しそうだ。
あれが新商品だろうか。少なくとも俺は今まで見たことはないな。いや、でも葉月の話し方からすると違うものなのか。
「美味しそうだな。確かに美味しそうだ」
「うん、とても美味しいんだ。もう美味しすぎて私を放さないの」
聞いたことない表現だが、ものすごい圧を感じるので葉月のあのケーキへの愛情は相当大きいらしい。俺も少し興味がわいてきた。
今度個人的に買いに来よう。
「私、もう早く食べたくて食べたくて仕方なくって…、もう耐えられない…」
葉月の顔は恍惚な表情となって俺のことを見つめている。そんな目で俺を見つめないでほしい。まだ別れて一日も経っていないのだ。これ以上、葉月の姿を瞳に映し続ければ余計な気持ちが芽生えてしまいそうだ。
早くこの場を去った方がいいかもしれない。
「そうなんだ。じゃあ早く買って帰りなよ。学校のみんなが心配してたぞ」
「…そうだね。じゃあまたね」
その後、俺はどうにか新商品を手にすることが出来、無事家に帰ってきた。店員さん曰く、俺が買ったやつが最後だったらしく運が良かったらしい。
舞に自慢するわけではないが、なんだか気持ちがいいな。
喜んでもらえるだろうか。
「ただいまー」
「おかえりー、兄さん。なにその袋?」
早速勘がいいのか舞は俺の左腕にぶら下がっているスイーツ店の袋に興味を示す。
「早いな、気づくの」
「当たり前じゃん。私、甘いものには人一倍敏感なの」
「ああ、知ってるよ。新商品ってやつを買って来たから二人で食べよう」
「やったー、兄さん大好き」
舞は可愛らしい笑みを浮かべて俺に抱き着いてきた。こういう時は調子いいんだから憎めない奴だ。
まあそもそも可愛い可愛い妹なんだから憎むことなんて絶対あり得ないのだが。
一応言っておくがシスコンではない。俺はシスコンではないと、断言する。家族として大好きなことには変わりないけど。
机の上にお皿を並べ、ケーキを切り分けていく。ケーキの芳醇な香りが部屋を充満して食欲をそそるそそる。
俺が切り分けている間に気を利かせてくれた舞がコーヒーを注いでくれた。
「うわぁ、美味しそー。兄さん、よくこれのこと知ってたね」
「ああ、クラスの女子が話してたのを聞いてな」
「へー。兄さんに女の子のお友達なんていたんだね」
「いや、女子同士が話してたのを小耳に挟んだだけだ」
「あっそ…ならいいや」
「…おう?」
舞から変なものを感じたのは気のせいだろうか。俺は横目でチラっと舞の様子を見てみるが、目を輝かせてケーキを見つめているだけだ。
俺の考え過ぎだったらしい。
「もう食べていいの?」
「いいよ。感想教えてな」
「うんっ!」
舞は胸の前で手を合わせる。そしてそのままケーキを口に運んだ。
「うんまぁ~、最高だよ兄さん」
本当に美味しそうに食べるな。俺も舞と同じように手を合わせ、ケーキを口の中に入れた。
美味しい、確かにとても美味しい。俺が今まで食べてきたケーキの中で一番おいしいかもしれない。これはコーヒーが合いそうだな。
「コーヒー美味しいな…って、あれ、身体が…」
「ごめん、兄さん」
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