第5話 人は知らぬ間に追い込まれていくものである

 放課後になり俺はさっそく部室へと向かっていた。普段は家に直行するのだが、今日は部長に来いと言われているのだ。


 中学の頃は部活に入っていなかった俺がなぜ高校生になって部活に所属しているのかというと、この高校が生徒は全員部活に入るべし、という考え方なのだ。それを聞いたときは行く高校を間違えたと思ったが、今になっては気にしていない。


 だって文化部であれば幽霊部員でも問題ないのだ。だから俺は地味な部活に入って、しっかりと幽霊部員になった。

 妹は中学でバリバリの運動部に入っており、時々表彰状を持って帰ってくる。


 兄妹で真反対だな。残念ながらもし仮に俺がスポーツ部に入ったとしてもレギュラーとして活動できる自信はない。そんなに運動神経良くないし。


「ども~」


 部室の入り挨拶を交わ…そうとしたが部室内には誰もいなかった。部長、わざわざ人を呼んでおいて先に居ないというのは問題あるだろ。


 でもあの人ならやりかねないな。部長は俺の人生の中で出会った人の中で一番マイペースな人だ。

 独特な雰囲気を纏っていてとっつきにくいというか、なんというか。


 彼女曰く自分はあまり人に心を開かないが、俺には開いてくれているらしい。嬉しいと言えば嬉しいけど、先輩にはもっと色々な人と親交を持ってほしいな。


 万年ボッチな俺が言えたことじゃないけど。


「ごめん~、待たせたよーだね」


「あ、はい。お疲れ様です先輩」


「真翔くんもお疲れ~。僕さ、本当は遅れてくるつもりなかったんたけどさ。なんか突然男の子に呼び出されて告白されちゃったんだ」


 それは災難…なのか?たまに部室に来るときは大体このような話ばっかりだから正直聞き飽きたのだが。


 俺も女子から告白されてみたいものである。普段から異性にモテまくっている彼氏彼女らは一体どんな心情なのだろう。

 やっぱり嬉しいのだろうか。それともされ過ぎて逆に鬱陶しいのだろうか。


 異世界にでもいってハーレムでも作ればその気持ちは分かるのか。それにしてもやっぱり異世界には憧れるな。

 異世界物を見ている時はいつも思う。俺も転生出来たらなぁーって。


 話が逸れたな。


「それでオッケーしたんですか?」


「そんなまさか。僕には既に心に決めた人がいるんだよ」


「そうなんですね。もしよかったら教えていただいても?」


「無理な相談だなそれはー。それはそうとして今日君を呼んだ理由だけど、もう分かってたりするかな?」


「いや、分からないですよ。いつも呼び出せれるときは事前に理由教えてくれてましたし」


 そうなのだ。部長はマイペースではあるがきちんとしている人だ。先ほども言った通り、いつもなら事前に呼び出した理由を教えてくれている。


 だというのに今回に限っては突然朝に部室に来てほしいというラインが一件あっただけ。少し嫌な予感がするのは気のせいだろうか。いや、気のせいであってほしいな。


「実はね、真翔くんが彼女の柊葉 葉月と別れたっていう噂を聞いたんだけどそれって本当なのかな?」

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