第3話 別れるときにはもう次の恋は始まっている

 家に帰ると妹が出迎えてくれた。


「おかえり、兄さん」


「ただいま、ご飯出来てる?」


「もうちょっとかかるかな。…それにしても兄さん、なんか変だよ?」


 俺の家族構成は両親と俺、そして妹の四人構成である。基本的に父さんも母さんも夜遅くまで働いているので食事は俺と妹だけになる。


 妹である舞とは本当に思春期の兄妹かというほど仲が良いという自負がある。舞がどう思っているのは知らないが、同じように思ってくれていると嬉しい。


「変?そうかな」


 至って俺は平常心だ…たぶん。葉月と別れたからと言ってこれからの生活に支障が出ることなんてない。

 

「うん、なんだか悲しそうな表情してる」


「気のせいだろ。なんもなかったよ。普段通りの一日だった」


「嘘だ。何もなかったらそんな言い方しないもん」


 舞に言われて気づいた。確かにこの言い方は逆に怪しまれるな。自分でも気づいていないようだが、舞には違和感を持たれたらしい。


「もしかして葉月さんと何かあった?喧嘩でもしたの?」


 舞には隠し事が出来ないらしい。ただ喧嘩なんて薄い話ではない。俺と葉月の交際は今日をもって終了したのだ。


 そういえば葉月と舞は仲が良かったはずだ。葉月がこの家に遊びに来るときは俺と話す時間よりも舞と話している時間の方が長かった気がする。


 いつかはバレることだった。それが少し早くなっただけだ。


「喧嘩じゃないな。もっと深刻な話だ」


「深刻?葉月さんと兄さんとの間で深刻な話って…別れたってことはないだろうし」


 なぜ別れるという選択肢が舞の中で消されたのだろうか。学生の恋愛の中で別れるなんてことは珍しくもない話だろうに。


 まあでも俺と葉月は仲が良かったからな。もしとても仲が良いと思っていたカップルア突然別れたなんて聞いたら驚くだろう。


「そのまさかだよ」


「え…冗談?」


 舞はたいそう信じられないといった様子で俺のことを見つめる。今まで見たことが無いくらい目を大きく見開いている。


「いや、冗談じゃないよ。さっき別れてきた」


「さっき?なんでまた…あんなに仲良かったのに」


「葉月の幸せを考えてそう判断したんだ。後悔はしてないよ。お互いのためなんだ」


「葉月さんの幸せって…兄さんと…だけど」


「ごめん、今なんて言った?」


「…いや、まあ二人とも納得してるなら私から言うことはないって言ったの」


 舞も大人だな。詮索をされないのであればありがたい。


「ごめんな。舞と葉月は仲良かったからさ。気まずくなっちゃうかもしれないけど、俺は気にしないでいいからな」


「うん、大丈夫だよ。今度話してみるね」


 ああ、と返事をすると俺は二階の自室に向かった。






 ☆☆☆


 兄さんの葉月さんが別れたらしい。


 それを聞いた私は驚かざるを得なかった。だって葉月さんの気持ちを私はよく知っているからだ。


 妹目線からいうと兄さんは特別かっこいいと言えないと思う。でもだからといって魅力がないとは思えない。


 兄さんは昔から見て見ぬふりを出来ない性格だ。私は虐められていた過去がある。私がまだ小学生だったころの話だ。


 兄さんは勘がいいのだろう。私がいじめのことを両親に隠していたことを兄さんにはバレてしまった。

 バレた次の日には兄さんは行動に出ていじめを止めてくれた。


 その時からだ、私が兄さんのことを大好きになったのは。親愛の大好き。兄さんには幸せになってほしいと思っているのだ。


 だから葉月さんという恋人を兄さんが連れてきたときは嬉しかった。やっと兄さんに幸せが訪れるんだって。


 葉月さんはとてもいい人だった。兄さんのことを本当に愛してくれていてこの人になら兄さんを任せてもいいと思っていた…のに。


 さっきはああいったけど、きっとこの兄さんの行動に葉月さんは納得していないはずだ。多分なんかじゃない、絶対だ。


 それほどに葉月さんは兄さんを愛していたからだ。



 ☆☆☆


 次の日学校に行くとなんと葉月は休んでいた。先生曰く体調を崩してしまったらしい。大丈夫だろうか。


 メールでも送るか。そう思ってスマホを触り始めたとき、突然話しかけられた。


「ちょっと話良いかな。虹橋くん」


「委員長?どうしたんだ?」


 話しかけてきたのはクラスの委員長であり、葉月の親友でもある音無 唯夢さんだ。

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