第21話 後ろの正面は誰ですか?
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私の特等席である最前列の席からの眺は、教壇に立つイケおじを心行くまで堪能できて最高だ。
担任であるイナ先生の一挙手一投足を眺めながら、ユーモラスな語りに思わず笑みがこぼれる。
入学式で無双した、どこかの魔法使いとは大違い。教室の中で誰も寝息を立てず、笑い声ばかりが溢れる夢心地に、朝から色々とあったものの幸先は良いのかもしれない。
一つ残念なことがあるとすれば、この最高に良い雰囲気を味わえない奴もいることであり、ちょうど私の真後ろの席にぽっかりと空いた穴、放たれる無の威容がなんとも不気味だった。
もう一つ、少し離れた席にも空間が空いていることを確認し、私にとって面倒なことこの上ない近い未来を予想すればする程に、今度はもっと徹底する他にないかもしれない。
もちろん空席については、先生から簡単な説明はあった。
入学式でのどさくさ紛れに起こった出来事について、なんら言及はされなかったものの、あとで生徒指導室に呼ばれてもおかしくはなさそうだ。
とりあえず一人は早退、もう一人は諸事情によって入学式を辞退したらしく、遅れて到着するとのことらしい。
そう言えばあのチャイニーズマフィア、もう四回もダブっているから入学式に出ないと言っていたけど……まさかね、私と同じクラスってことはないよね?
私はカザミ、あいつはカスガ、五十音順の並びならば、あいつが私の真後ろと言うのもあり得なくもない。
若しくは、私の思った以上に東方共栄学園の治安が悪く、毎年ダブった奴がいて当たり前の可能性も否定できないけれどね。
イナ先生の漫談、あるいは海外のスタンダップコメディのようなチュートリアルを楽しんでいれば、時間が経つのもあっという間だった。
ふいにチャイムが鳴り響くと同時に、クラスメイトたちは名残惜しさからか、教室中からため息が溢れ、空気の読めないチャイムに対するブーイングまで流れる程だ。
私の先入観かもしれないけれど、学校という空間ではなかなかあり得ない、珍しく最高にユニークな学びを初日から堪能できて最高だ。
イナ先生劇場の初日をご一緒出来なかった約二名、ちょっと残念だったね?……ああ、一人については自業自得、私に意地悪して喧嘩を売った方が悪い。
もう一人はそうだね、ちょうど小休憩だからどんな奴か確認させてもらうよ。
席を立った私は、すぐ後ろの机に貼られたネームをじっくりと確認すれば……笑みが溢れるを通り越して、思わず噴いてしまった。
『春日 虎千代(カスガ トラチヨ)』
おい、チャイニーズマフィア……よりによってお前かよ!?
お前はまたと言うのか、そもそもまだ一年生だったのかよ?───。
◇
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