第20話 入学式からひとっ飛び
◇
私はなにか探し物をしていた訳でもなく、「それより僕と踊りませんか?」と謎の男にナンパされた訳でもなく、夢の中へと強制転移させられた。
ただただ冗長性のあるがままに、ゆったりとした校長先生語り口は、眠りの淵へと誘う魔法そのものだったから、落ちていく感覚と共に戦慄を覚えたのは言うまでもない。
カスガ、イナ先生、忠告ありがとう。けれど、他にもっといい方法はなかったのか?
例えばそうだね、新入生向けの案内に一筆加えて、耳栓やイヤーマフを持参するように薦めるとか、なにかいい方法はあったと思うけどどうなの?
過ぎたことだから今さら文句を言ったところで仕方ないけれど、あれから夢の中でどれぐらいの時間を漂い続けたのだろうか。
微睡みの中でもゆっくりと聴こえてくる喧騒が、ある意味で目覚まし時計のようなものか、または時報、あるいはキッチンタイマーの代わりとして機能し、私を校長先生の策略から救おうとしているのだろう。
親切心、それとも義務感なのかはわからないものの、気を利かせた誰かに肩を叩かれたことで、パッと眼を見開こうにもまだ重い。
左手でメガネのブリッジに触れて、少し上にずらして未だ微睡みを帯びている眼をこすり、再び定位置に戻して右へ左へと視線を泳がせた。
小さな小さな私を取り囲むようにして立ち上がり、まるで成長したかのような木々は、私への日照権を渡すつもりなんてなさそうだ。
ようやく夢の世界から帰ってきたかと思えば……もう終わっているのかよ?
え、新入生起立って言われたの?……わかったわかった、私は大丈夫だから、今立ち上がるからそう急かさないでくれ。
私の座り込み運動は瞬く間に幕を閉じ、このままモタモタしていると邪魔なのは承知しているし、幼い見た目の私を圧すような空気で物理的に押さないでくれるとありがたい。
避難訓練の『おかし』は、皆さんご存じだろうから、このまま押されたら天安門より酷いことになるかもね。
小さな小さな私から見れば、59式戦車のようなクラスメイトたちに急かされるがまま、踏み潰されないようにそそくさと立ち上がり、心の中で全く無意味な『愛国無罪』を唱えながらもどこかむなしく、とにかく出来る限りの急ぎ足でもって、遅れながらも先行する隊列に加わった。
相変わらず前も後ろもよく見えないけど、隊列の行き先に従って会場を出てしばらく歩けば、一年間お世話になる教室へと到着した。
教室に入ってまずやることが、私の席はどこにあるのかを確認することだ。
近眼で小さな小さな私は、必然と妥協の入り交じる授業中に惰眠を貪ることは難しそうだけど、出来る限りは最前列を希望する真面目さを評価しろよ?
邪な願いも含め、ほんの少しの幸運を願いながら探してみれば、ご丁寧にも私のフルネーム、出席番号の書かれた紙が貼られていた机を確認。
希望通りの最前列の席に、私はご機嫌そのもの。
話の面白くない先生、人間性の終わっている先生の授業だけはお断りだけど、こればかりは運を天に任せるがまま、少なくとも担任はイナ先生だから、間違いなく大当たりだね───。
◇
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