第19話 右へ左へ、夢の中へ
◇
私の気難しい性格、価値観のズレから同年代との相性が悪く、必ずといっていいぐらい意地悪な奴に目をつけられる。
入学式が始まるギリギリのタイミングでも意地悪な奴と遭遇し、邪魔されたばかりか侮辱までされたのならば、それなりの対価を払ってもらうまでであり、どさくさ紛れに制裁を加えればそうだね……一人騒いでいるおバカのご退場となった。
見かけによらない、カスガとナギさんを見習って欲しいものだ。
どさくさ紛れもあってか、幸運なことに私に対してなんらお咎めもなく、騒いだ本人が例えどんなに弁明しようとも、チビの女に足を踏んづけられてピーピー泣いている……なんて言えるはずもなく、信じてもらえるはずもないだろう。
一つ分の席が空いたことにより、かえって私は目立たず、最高に平和な入学式の始まりとなるだろう。
チビで近眼の私は、メガネ越しに映る景色を満足に眺めることなんて出来ない。
私よりも座高の高い木々に阻まれているおかげで、前を見ることはおろか、後ろも右も左もよく見えない。
私になんら恩恵をもたらさなかった成長の格差によって、現在進行形で日照権を侵害されている私は、さっさと空中権を売ってお金にして終わらせたいものの、今は取引する相手も暇すらもない。
噂に違わず、校長先生の長い話は、一度語り出したら止まらない私の一人称と同じく、想像以上にご機嫌で絶好調のようだ。
ああ、これまたなんというか、ヤマもオチもない冗長性に特化し過ぎなゆったりとした校長先生の語りは、まるで魔法のように不思議と眠気へと誘われるのだ……。
山は死にますか、海は死にますか、防人のように、あるいは万葉集のように、生きとし生ける全てのものは、まるで死んだように眠りの淵へとご案内……。
ヤマもオチもなく、私は落ちていく運命にあり、もはや凄腕の殺し屋レベルに絶好調な校長先生の語りは迷宮入り……。
耳へ頭へ、右へ左へ迷走しながら通り抜けていくがまま、時が止まり眼を閉じて瞑想すれば、煩悩が抜けていく訳でもなく、誰も渇を入れてくれないものだから、今すぐ住職を複数人用意して欲しい……。
さもなくば、私もいい夢を見させてもらうぞ?……そして願わくば、このまま卒業式となって終わってしまえ。
そして、私にとって最高にクールで快適でご機嫌なはずだった、ボッチライフを振り返りたい……ああ、もう叶わぬ夢かもしれないけどね?
今日という日は、それまでの私が想像すらしていなかった、最高にクレイジーでありながらも楽しい人たちと知り合ってしまった。
私がボッチでありたいという願望も儚き夢と化した。
ボッチな私が目を背けていた、潜在意識の中にある本心を自覚してしまったことへの責任を取ってもらいたい。
カスガ、ナギさん、イナ先生……私はあなたたちを恨むよ、羨むよ、精一杯楽しむよ?
だからさ、これからいい夢を見させてもらうからよろしく。そしておやすみ───。
◇
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