第18話 面倒な壁は、こうやって乗り越える







  イナ先生のエスコートでご機嫌な私は、目の前の同級生、クラスメイトとなる一同に会釈し、木を隠すには最適な森を掻き分けるようにして入れば、快く道を開けてくれる親切な人、マナーを弁えている人に一言添えて会釈しながら進むも、どうしても道を開けようとしない意地悪な奴もいる。


「ごめんなさい、ちょっと通してもらえないかな?」


 一言クッションを挟めば、小さな私に気付いて開けてくれる人は問題ない。


 それよりも問題なのが、全く道を開ける素振りすらない意地悪な奴であり、何度か声をかけてもなしのつぶて……果たして日本語が理解できているのか、謎が深まるばかりであり、業を煮やした私は、次の一手を打った。


「Excuse me, can i get by?……can you hear me? or you are indeed foolish?(すみません、通してくれる?……聞こえてますか? それともお前はアホなのか?)」


「あ? なんだこのチビ? なに訳わからねえこと言ってんの? ここは日本だから日本語喋れよ?」


 最初から聞こえていたのかよ、私がチビだからって舐めた口を聞いてくれるね。


 そうカッカするなって、カルシウム摂れてますか? 牛乳飲めよ?


 いくら牛乳を飲んでも、私の身長には反映される訳もなく、目の前で横暴な態度を取るカルシウム摂取不足野郎を見ていると、牛乳に見放されたこっちもイライラしてくる訳だ。


 おまけに脳の栄養も足りていないのか、たるいは新陳代謝の活発な脳みそで羨ましい限りだけど、私の通り道にぶらりと足を投げ出して塞ぐものだから、邪魔で邪魔で仕方ないね。 


「そうだね、目の前に日本語の通じないバカがいるからね。もっと簡単な英語だったら通じるかと思ったんだけど……そのオツムでよく入学出来たね?」


「なんだと? チビのくせに生意気だあっ!? 痛ってえええええ! おめえなに人の足を踏んづけているんだよ!?」


「そういう趣味だと思ったけど違った? ごめんなさい、痛かった?」


 あまりにもムカついたから、投げ出されたうちの片足を思い切り踏み抜けば、なかなかに痛快な鈍い音と歓喜の声が響き、顔を真っ赤にして悶える姿は傑作だ。


 しかし、このままでは埒が明かない上にかわいそうだから、不足している栄養と同様にバランスよく、無傷のもう片方にもおかわりだ。


 景気よく思い切り踏み抜いてやれば、今度は歓喜を通り越して真っ赤だった顔が、まるで死んでから相当鮮度の落ちたイカのように、みるみるうちに顔が青白くなっていき、悶え苦しむ意地悪な彼は、脂汗を流してうめき声を挙げ、ようやく道を譲ってくれたのだ。


 全く、最初からそうしてくれるとありがたいものの、変なプライドと変態な趣味には付き合ってられないよ。


 うるさい負け犬の前を通り過ぎてからも相変わらず、よく吠えるけどいい注目の的で、先生から注意を受ける様を背中越しに聞けば、最高に気分がいいね?


 おかげで誰一人として意地悪なことなんてしてこないし、ようやく木を隠せる森のど真ん中へと到着。


 小さな小さな私のことを気遣ってくれたのか、クラスメイト一同が率先して木々を分けるように、ご丁寧にも空間を大きく空けてくれている心遣いに感謝しよう。


 けれども参ったね、これじゃあかえって目立ってしまうような気がするし、校長先生の長話で夢の世界に行っても大丈夫なのかな?───。








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