第17話 木を隠すには








  私の面接を担当したイナ先生と久々に再会し、時間ギリギリにも関わらず、ついつい話が盛り上がり、夢中になってしまったものだ。


 私は同年代と全く話が合わず、人と関わるのが物凄く苦手である……にも関わらず、年代が違えば不思議と問題なく話せる。


 カスガしかり、ナギさんしかり、イナ先生しかり、この三人に共通するのは、溢れんばかりのユーモアであろう。


 背伸びばかりをする私にとって、ユーモアの溢れる大人に余裕と魅力を感じる一方、狭量な小人物に対して情け容赦など不要、無用である。


「……おっと、そろそろ時間だが、その前に一つだけいいか?」


「どうぞ」


「カザミにしては珍しいというのか、面接のときは30分前から居たよな? それがどうして、今日に限って時間ギリギリなのか、少し気になった。よければ先生に事情を話してくれるかな?」


 面接の時のことまでよく覚えているというのか、刑事コロンボのように頭をかきながら問いかけられたものの、私は正直に答えたところで信じてもらえるのだろうか?


「ああ、嘘のような本当の出来事もあるからさ、言いづらい時もあるよな?」


 どのようにして伝えようか、躊躇している私を見透かしているのか、先生の表情から察した私は思わず、ゆっくりと両手をあげながら降参の意思を示す他になさそうだ。


 先生と喋りすぎたから時間が押している、ここはわかりやすく簡潔に伝えよう。


「登校中にハリウッドセレブのようなナギさん、チャイニーズマフィアのようなカスガと出会ったのでギリギリになりました」


 名前のみならず、せめて特徴ぐらいは併せて伝えればわかり易いだろうし、むしろしっかり伝わったのか、ほんの少しだけ間を置いてからイナ先生は大笑いした。


 あまりにも荒唐無稽な話で笑われたのか、ともあれ気持ちよく笑うものだからこちらも釣られたのは言うまでもない。


 しばらく二人で笑い倒したあと、先生は真顔を諦めたのか微笑のまま、一呼吸を置いてからこう言った。


「映画のように刺激的な送迎だったろ? 話はナギサから聞いている、担任として特等席へ案内するよ」


 情報が伝わるのも早いというのか、ナギさんは携帯端末でカスガと英会話を繰り広げていたと思っていたけれど、私の知らないうちにメッセージの一つでも送ったのだろう。


 私は会場入りしてなにも困ることなく、先導するイナ先生に付いていくがまま、案内された先には私と同じ制服を着た有象無象たちとはじめまして。


 私の席は……ドーナツの真ん中、入るのが面倒な一方、話が長いと噂の校長先生から隠れるようにして眠るには最適の位置。


 木を隠すには森、有象無象なジャガイモのようなクラスメイトの陰に隠れるには、小さな小さな私にはうってつけだろう。


「カザミ、一つ忠告がある」


「イナ先生、もしかして校長先生のお話?」


「ああ、もうカスガ、ナギサから聞いたのか? まあいい、昔から全く変わらないものでね、いい夢を見ろよ?」


「うん、卒業までそうさせてもらう」───。







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