第14話 初登校は野生の馬と共に








  我が国において、身長150cm以下に対するチャイルドシート着用の規定はなく、欧州で無いことに安心しつつ、私の年齢は15歳だからなにも問題ない。


 シンプルにナギさん、カスガの二人の身長が高過ぎるだけであり、小さな小さな私はマッチョな外車に乗せられ、VIP待遇と思わせておきながら海を越えてエリア51行きもあり得なくはない。


 私が参加するはずの入学式は、果たして間に合うのか、それともたどり着けるのかすら不安なのは、チャイニーズマフィアとハリウッドセレブのような二人の取り合わせから、映画のワンシーンを思わせているからなのかもしれない。


 小さな小さな私にとって、シンデレラフィットに等しい後部座席のシートベルトを装着し、準備万端であることを確認したカスガは、周囲の様子を伺いつつサイドブレーキを解放。


 野生の馬をモチーフにしたマッチョな外車らしく、ハザード、ウィンターを焚けば馬の歩く音が鳴る粋そのものだった。


 ハザードを切ってからゆっくりとアクセルを踏んで発進し、少し進んだところでふいに留まった次の瞬間だ。


 ブレーキとアクセルを踏み込んだまま、けたたましく暴力的で官能的な排気音が鳴り響き、更に唸りを上げるエンジンのパワーにタイヤは空転し、白煙を上げたおかげで車内にはゴムの焦げる臭いが充満した。


「カスガ、あたしのダディーの車だから大事に扱えよ?」


「ああ、わかっているけどさ、この音を聞いたら踏み込みたくなるだろ?」


「そうだな、それにはあたしも同意だ。おかげで何台も潰してきたからさ、ダディーは苦笑いするし、マミーには心配をかけているからな」


「ま、この車なら早々死にはしないさ」


「違いない、ヒナコ、ちゃんと掴まっていろよ?」


 マッチョでパワフルな外車と同じく、あまりにも脳筋過ぎる会話を前にして、外人みたいな二人のように笑えずに顔がひきつったまま、私の運命は果たしてどうなるのか?


 ブレーキから解放されてタイヤの空転する金切り声のようなスキール音を響かせ、急加速して身体を引っ張られる感覚と共に立ち込めた白煙を置き去りにしていき、命の無事を保証されないまま、学校に辿り着くどころかエリア51までひとっ飛びしそうな勢いだ。


 もしかしたら、天国へご案内されているのかもしれないし、あるいは映画の撮影に紛れ込んだだけだと言い聞かせた方が、ある意味で私はご機嫌なまま、最高な人生だったと思い込めることであろう。


 流れる景色はあっという間に通りすぎていき、不親切にも程がある走馬灯を走るかのような、野生の馬の名を冠したマッチョでパワフルな外車で駆け抜けた先に、目的地が見えてきたことで一安心……どこから入るのかはわからないけれどね。


「カスガ、職員用の入り口から入れ」


「おう、ナギ姐の車だってわかれば、みんな道を空けてくれるからな」


 ああ、私でもきっとそうするし、ナギさんはいったいどういう扱いなのかが気になるし、なによりもカスガが免許を持っているのかすらわからない。


 なによりも無事、入学式には間に合いそうで一安心し、ここがエリア51でないだけ人並みの幸せを改めて実感した初登校だった───。







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