第13話 ジョークは程ほどに
◇
入学初日、これまでと変わらずボッチライフを満喫することになるだろうという予想は、先ほど知り合ったばかりのナギさん、カスガの二人によって、急遽路線変更を余儀なくされた。
カボチャの馬車ならぬ、マッチョでいかにもパワフルな外車の後部座席に乗せられ、さながらシンデレラ気取りだったのは、カスガが思った以上に紳士的な振る舞いをしたからである。
だが、どうやら私は思い違いをしていたらしい……。
上弦の月のように湾曲した、頑強で重厚な杖のようなものを足の甲に落とし、怪我をしているナギさんがハンドルを握るはずもなく、助手側から乗り込む様子を見れば、誰がどう見ても運転するのはカスガらしい。
お前、免許はあるのか?……ま、今は野暮だろう。
長身の二人を前にした私は、シンデレラならぬ、ロズウェル事件のように捕獲されたグレイ宇宙人のように小さいからな。
願わくば、無事、入学式へ間に合いますように……よし、八百万の誰でもいい、私をエリア51ではなく、なんとか学校へと導くだけでいいからな?
カスガのエスコートにより、私が後部座席に乗り込んだことを確認したナギさんは、助手席のシートを戻して乗り込もうとするも、片足を怪我しているのもあってか、どこかぎこちない動き。
そもそも長身過ぎるのもあるけど、豪快に頭をぶつける様子を目の当たりにしてしまい、失礼だけど思わず笑ってしまった。
ナギさんの身長からして外車はお似合いだが、サイズはともかくとして、車高の低いスポーツカータイプだからか、様々な要素から鑑みて仕方ないこともあり、私と同じくしてカスガも堪えるまでもなく笑っていた。
「お前ら、笑いすぎだぜ?」
「ナギ姐、あんたのおかげでカザミはすごいご機嫌だ」
「そうなのか? ヒナコ、お前はもっと笑った方がかわいいぞ」
「そうかもね、私は中学のときに全然笑わなかったから……そりゃ全然モテなかったよ?」
助手席に座るハリウッドセレブのような長身美女のナギさんと、運転席に座る香港ノワールの主演俳優気取りのカスガから成る、ワールドワイドな二人を相手にした一匙のジョークで笑いへと誘った。
本場アメリカンなジョークはわからないけれど、二人の楽しそうな様子に小さな小さな私も大笑い。
まるで映画の世界で観たことのあるような、賑やかな車内の様子は一発撮りのノーカットだからこそ、会心のジョークが二人に刺さって爽快そのもの。
ひとしきり笑い倒したあと、息を切らしながら振り返ったカスガは、サングラスで隠しきれない笑みを浮かべながら、私に向かってこう言ったんだ。
「カザミ、そろそろ行くぞ。安全のためにシートベルトを締めてくれ……ああ、チャイルドシートはないからうまく調整してくれよ?」
「おいカスが、ここ日本だから身長制限はねえよ? どこの国の話をしてるんだ?」
全く、身長ネタは勘弁してほしいけれど、そこまでワールドワイドを求めてないからな?───。
◇
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