第15話 また会うときまで
◇
チャイニーズマフィアによるアクション映画さながらのダイナミック送迎は、多分誰にも迷惑かけることなく、無事に学校へと到着し、入学式にはなんとか間に合った模様。
車を止めて運転席から立ったカスガは、シートを倒してから私に手を差し伸べる紳士そのものであり、ここはとことん甘えるだけ甘えさせてもらうに限る。
彼の温かい手と私の小さな手が触れ合えば、わざとらしく揺らぐようにして高鳴る鼓動は、単に私が恋愛経験のない於保小娘だからであろう。
小さな小さな私を運んだ、シンデレラフィットなカボチャの馬車の後部座席から引っ張り出された直後、がっしりとキャッチされるがまま、人生で初めて男の人とハグをするなんてね?
服越しに伝わるカスガの温もり、筋肉質な身体を感じれば感じる程に、不思議とこのまま時間を止めてほしいという感情が込み上げてくる。
私の免疫力の無さに悲しみを覚えるばかりか、果たしてこれから鍛えられるのかすらもわからない。
確かなことがあるとすれば、カスガを基準に考えてみると、その他大勢の有象無象たちは、ジャガイモとなんら変わらない。
当然腹が減らない限りは、ジャガイモに執着したり惚れ込む程でもなく、そもそも私は農業系を志望した訳でもないので、入学式ならぬ収穫祭は聞き流しておしまいだろう。
私の世話が終わればわずかな温もりを残したまま、カスガは助手席の方へと駆け寄り、今度はナギさんの手を取る紳士な振る舞いに、少しばかりジェラシーを感じた。
小さな小さな私も女の子らしいと言うのか、想像以上に心が揺らぎ、くるくると翻弄されるものだから、あまりにもチョロ過ぎて恥ずかしい限りだ。
全く動じない様子のナギさんを見れば、私はまだまだ人生経験に乏しいだけの於保小娘らしく、高い高い壁に歯痒い思いをするのがお似合いだ。
「ヒナコ、あたしらは用があるから先に行ってくれ。ああ、困ったら会場にいる、イナを頼ってくれ」
「イナ?」
「ああ、お前の面接を担当した先生だよ。入口付近にいると思うから、一言挨拶でもすれば悪いようにはならないさ」
「そう、ありがとう。ところでカスガは?」
まるでマフィアのようなズートスーツテイストの制服を着こなすカスガの学年はおろか、そもそも運転免許を持っているのかすらわからない奴に送迎されたことを考えると、好奇心の赴くがまま、知りたいことが山ほどあるのだ。
カスガは少し考え込むような仕草を見せたあと、小さな小さな私に視線を合わせ、ゆっくりと口を開いてこう言った。
「ああ、俺か? 入学式には出ないよ、もう4回ダブっているからさ。おかげで運転免許も持てる年齢って訳」
道理で有象無象たちとは雰囲気が違うわけで、制服の内ポケットから取り出した長財布から、運転免許証を取り出して私に手渡し、マグショットのような顔写真に思わず笑いが込み上げた。
更に生年月日を確認してみれば……私の五歳上だったから、どういった事情でそうなったのか、先のブラックユーモアだらけの会話と併せてみれば、きっと聞かない方がいいのかもしれない。
運転免許証を返し、うずく好奇心をいったん心の底に置いた私は、カスガを見上げながら一呼吸を置き、ゆっくりと伝えたいことを簡潔にまとめた。
「カスガ、送ってくれてありがとう。入学初日から楽しくなりそうだよ」
「ああ、どういたしまして。カザミ、校長の話は長いから気を付けろ」
「忠告ありがとう、また会ったときはよろしく」───。
◇
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