第9話 愛嬌よりも度胸
◇
身の丈2mもあろうかという、まるでハリウッドセレブのような外人のお姉さんに英語で話しかけたら、普通に通じて日本語でも問題なく話せるばかりか、お互いに自己紹介を済ませてすっかり知り合いの仲になった。
おまけに ナギさんこと、香坂 凪沙(コウサカ ナギサ)は、今日から私が通う『東方共栄学園』の英語講師だった。
小さな小さな私と違い、街道上の美しき怪物である大きな大きなナギさんの存在感を目にすれば、有象無象たちは律儀にも道を外さないことに納得した。
有象無象の壁と近眼のおかげで、私には全く見えてなかったからままならないね?
「……私はナギさんと同じで困っているんだ」
「あたしが困っているように見えるって? ああ、あたしが足を怪我しているのは事実だし、うちの生徒で見ない顔のやつがさ、朝っぱらから堂々と裏ルートを開拓してくるもんだからね?」
「ナギさん、あなたは困っていると言いつつ、楽しそうな顔をしている」
「ああ、そうだよ。ヒナコ、お前が面白いことを言うからさ、あたしは楽しくてね?」
「よくあるクソガキのこれまたクソみたいな言い訳を、延々と聞くよりも面白いでしょ?」
「こりゃあ最高にイカれたリトルビッチ(メスガキ)だな。ヒナコ、お前は最高に面白いよ」
リトルビッチとは心外だけど、これまた豪快に大笑いするナギさんに釣られて私も笑えば、最高に心地がよい。
このままナギさんと二人で笑い続けていたいけれど、そうなれば入学式をサボれるかもしれない……それはそれで心が痛むのは、私が真面目すぎるのかもしれないね。
ともあれ、ナギさんがこのままタダで通してくれそうにはなく、彼女が足を怪我していることに付け込み、走って強行突破する選択肢は無くもない。
しかし、それだけは私の心から正しいとは思えないし、かといって再び有象無象でごった返す通学路に戻るのは、同じくして断固として拒否したい。
さっきの英会話同様、話せば少しでも通じてくれればいいけどね。
「私は見ての通り、あのお宮参りはキツイし、戻りたくない。大丈夫、学校までのルートはわかっているから」
「気持ちはわかる、けれどあたしも仕事でね? ただ黙って見逃す訳にはいかないし、ここにあたしが立っているからさ、あいつらがビビって道を外さないのさ?」
「……困ったね、私はタマ無しのあいつらと違って、少しばかり度胸に自信があったんだけどね?」
「ああ、お前とは気が合うな? あたしも度胸に自信はあるけど、こんな成りでもお前と同じで女だからな?」
私にしても、ナギさんにしても、お互いに朝から溢れんばかりのユーモアが光り、終始笑いが止まらない楽しい時間だ。
中学時代までこんな人と出会うことなく、ボッチライフを満喫していた私だけど、こうも面白い出会いがあるなんて……想像すらしていなかったよ?
だけど、このままじゃあ入学式どころじゃないし、ナギさんも話せばわかってくれないものかな?
もっとも、犬養毅を囲んだ青年将校のように、問答無用だけは勘弁して欲しいね───。
◇
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