第7話 エクスキューズミー








  私、風見 日向子は……今、ちょっとピンチです。


 多種多様な制服姿の有象無象たちの流れから逃れるようにして、路地へと脱出した小さな小さな私の前に立ちはだかる高い高い壁。


 身の丈2mはあろうかという外人の女性に道を阻まれている……単なる思い込みにしては、大袈裟かもしれない。


 しかし、私の身長からしたら長身の外国人は、だいたい2mぐらいに見えるばかりか、見下ろされるようにして視線がばっちりと合っている以上、あたかも蛇に睨まれた蛙のようだ。


 井の中の蛙のように小さな小さな私は、どうやら広い海を知る前に捕食者と遭遇したらしい。


 大きな外人のお姉さんは、私のことを睨むのも飽きたのか、ゆっくりとこちらへと近づいてくるものの、私の身体は固まったまま思うように足が動かない。


 もっとも、逃げたところで有象無象に押し流されるがまま、漂う生きようにため息しか出ないであろう。


 ならば、少しだけでも勇気を見せたほうが、よっぽど面白いのかもしれない……考えを改めてみれば、不思議とワクワクしてくるのは好奇心か、それとも蛮勇か、童話でいえばさながら一寸法師……いや、誰が一寸法師だよ?


 小さな小さな私に一歩、また一歩とゆっくりと近寄る高い高い壁は、片足を引き摺るようにして庇いながら、杖のようなもので支えながらゆらりと近付く度、立ちはだかる高き壁が更に大きくなり、ますます私の存在が小さくなるのだ。


 身の丈2mを支える杖は、磨かれて装飾を施された流木のように太く、長く、アスファルトをつく度に鈍い音が鳴り、ただの杖にしては過剰なぐらい重厚で頑丈な造りなのだろう。


 上弦の月のように湾曲した杖の形状、ちらりと見える不自然な繋ぎ目や鋲は、あたかも暗器のように刀身でも仕込んでいるみたいだ……そうだね、外人は SAMURAI,NINJA が大好きだから、きっとそういうことなのだろう。


 もっとも、小さな小さな私の命の保証はどこにもないけどね?


 ただの不審者にしては、なんというか……ハリウッドセレブレベルでお洒落すぎる程に身綺麗であり、足を引き摺っている以外に挙動は問題ない。


 例え今すぐに通報したところで、荒唐無稽な話を聞かされる警察は相手にしてくれないだろうし……生憎、もうそんな時間は残されていない。


 巨大な壁とチョモランマ二つがもう目の前だ、童話よろしく一寸法師を舐めるなよ?


「……Excuse me, Can i help you?(失礼、なにかお困りですか?)」


「What's? ah,thank you,but i'm doing OK(なに? ああ、大丈夫だ、ありがとう)」


 先手必勝、こちらから話しかければ少しは驚いた様子。


 とりあえず外人のお姉さんには通じたようでなによりだが、ここからどう切り抜ける?───。







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