第6話 逃れた先の高い壁







  私、風見 日向子は、たくさんの生徒たちでごった返す通学路に辟易している。


 ご機嫌なはずだった出発前のテンションは、まるで風向きが変わるかのようにいったいどこへいったのやら?


 小さな小さな私の身体のおかげで全く前が見えない、まるでお宮参りのような状態で不機嫌そのもの。


 私はただ風に吹かれる風見鶏のように辛抱強くないし、この人混みに倣えなんてごめんだ。


 私と同じ制服だけでなく、他校の制服が入り乱れる指定の通学路通りに従う道理とは、いったいなんなのだろうか?


 人の流れに身を任せて漂うがまま、生きていけと言うのも私にとっては、前が見えない以上は酷である。


 もしも、眼鏡がなかったら、私は前も後ろもわからず、ただ流されていくがままに廃棄されていくのであろう。


 流されるがままの人混みは、人のようで人ではないような気がする。


 まるで奴隷船へと連行されているかのようでくだらない、実にくだらないし気に入らない。


 こんなバカなことに付き合ってられるか。


 隙をみて生徒たちの合間を縫って脱出を試み、律儀にも何故か誰も通らない路地を見つけて飛び込んだ私は、今一度、指定の通学路を振り返るも……ああ、振り返るまでもなかったよ。


 小さな小さな私にとって、有象無象の流れに身を任せるなんてごめんだ。


 異端を見るような目で見られてもいいさ、私の生存戦略は有象無象と違ってまた別の道があるんだ。


 少し遠回りになってもかまわない、迷うことになってもかまわない。


 学校までの道のりは、行き止まりでなければローマと同じく通じているし、なによりも海を隔てていないことを知っている。


 一人暮らしを始めた合間、フォレスト・ガンプのように走り回って風となったから、私の頭の中には一枚の地図が出来上がっている。


 だから私は、有象無象たちのように流されて漂うことなく、私が、私の心から進みたい道を選ぶことで開かれた先に見えたものは……高い壁だった。


 私の頭の中にある地図の情報は、決して道を間違えたわけでもなく、行き止まりなんかではないし、工事中というわけでもない。


 情報を更新、イレギュラーが発生した。


 私の進行方向に高い壁、身の丈2m近い外人の女性らしき姿を確認……こちらに気付いたのか、彼女に見下ろされるようにして凝視され、ついにレンズ越しに視線が合った。


 近眼の私に面白い世界を見せてくれる眼鏡のおかげか、まるでハリウッドセレブのような超絶美人に見下ろされれば、思わず目を奪われたのはいうまでもない。


 なによりも……私の煩悩、無い物ねだりリストが今ここに具現化したかのような長身美女のスラッと伸びた長い四肢、お胸にチョモランマが二つのアメリカンナイズな欲張りセットのお出ましだ。


 羨ましい、小さな小さな私の呪われた装備、まな板と比べれば比べるほどに悲しくなる。


 まるでガリバー旅行記の小人そのものであり、小人の仲間はどこにもおらず、そもそも私には友達なんていないただのボッチだ。


 私、風見 日向子は、入学初日以前に詰んだのかもしない。


 おばあちゃん、身の丈2mの外人の女性に睨まれた私は、いったいどうすればいいのかな?───。








 

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