第5話 役満のような幸運に恵まれ
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私、風見 日向子は、今日から高校生活が始まる。
入学に先立ち、越境組となる私のことを気遣ったおばあちゃんにより、一人暮らしを勧められるがままに契約してくれた、学校から程近いアパートの住み心地は悪くない。
部屋の中にはこれといったものを置いている訳でもなく、殺風景ながらも心は落ち着くから問題ない。
時折、両隣や下の部屋から『チー』、『ポン』、『カン』、『ツモ』、『ロン』等と聞こえるのは、きっと麻雀好きな住人でもいるからだろう。
物件名もなんというか、『緑一荘』という遊び心の詰まった雀荘みたいな名前だけあってか、当然のように家賃も親番への振り込みに因んで48000円だ。
出来れば自分でツモって欲しいものだけれど、親番、もとい大家さんには逆らえないね。
先んじて始めた一人暮らしそのものは、時々おばあちゃんが遊びに来てくれるからちっとも寂しくないし、私の成長を願って相変わらず、おいしいご飯をいっぱい作ってくれて嬉しい。
もっとも、身長が伸びる気配を感じないのは何故だろう? きっと私のご先祖様がなにかやらかした結果、末代まで祟られているような気がしなくもない。身長だけピンポイントにやられるのはともかく、もう嫡男はいないのにね?
そんなことよりもおいしいご飯、もちろん当面の常備菜も作ってくれるから、私の食生活はなんら困らないし、おうちの味をそのままに、遠く離れても心は繋がっているんだ。
私は人前で滅多に笑顔を見せることなんてないけれど、おばあちゃんにだけは特別で、そんな私を心からかわいいと言ってくれる。
ちょっと気恥ずかしいけれど、もっと素直に喜べたらおばあちゃんもきっと嬉しいんだろう。
大丈夫、私は静かながらも高校生活を頑張るから、なにも心配しないで欲しい。
どちらかと言えば身長のこと、あとは近眼故の不便さぐらいだからね。
入学を祝していい眼鏡も新調してくれた。
小さな小さな私の我が儘で、おばあちゃんのお財布事情を困らせてしまったかもしれないけれど、快く私に似合いそうないい眼鏡を選びなさいと言われたときは、嬉しい反面、少し申し訳ない気持ちもあった。
けれど、新しい眼鏡を掛ければ、それまで身長同様にお子様そのものの私が、まるで生まれ変わったかのように大人びた表情を見せたことで、少しだけ内から自信に満ち溢れたような気がした。
リムレスのラウンドタイプの眼鏡に変えたことで当初は、ショートヘアで私の幼い顔立ちとのバランスを心配したことによる違和感を覚えたけど、慣れた今となれば、少しだけ大人になった私はご機嫌そのものだ。
おばあちゃん、なにからなにまで私のためにありがとう。
私、風見 日向子は大丈夫、静かに最高の高校生活を満喫してやるからね───。
◇
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