第3話 独り善がりのヒーロー
◇
私、風見 日向子は、友達が全く出来る気配すらなく、おばあちゃんを少し心配させているけど、中学生ながらボッチライフを楽しめているからなにも問題はない。
おばあちゃんの心配は老い先だけにしてもらいつつ、最高に自由気ままなボッチライフを楽しんでいたある日のことだ。
図書室の主として引きこもっていたのが嘘のように、打って変わって毎日風のように駆けていく私に誰かしら目を付けたであろうか。
運動部の連中と目が合った……気がした次の瞬間、突如として追いかけてきた訳で、当然怖いから逃げるに限る。
ある意味で私の身体目当てと言ってもいい程にしつこいもので、ならば負けじと走り続ければまるで興味の湧かない、つまらぬマルチな勧誘をするつもりであろう、有象無象の運動部の連中を置き去りにして風と共に去りぬ。
結果として逃げ切ることに成功し、ゴールテープはなくとも勝者となった私の噂は、風と同じくしてあっという間に広まり、映画のように終わりなんてなく、懲りずにやって来る有象無象による勧誘の撃退方法をあらかた試したぐらいだ。
とりあえず逃げる、三十六計逃げるに如かずだ。
その後、運動部の勧誘を置いてけぼりにする日々を送れば、ある時はヒーローのような扱いをされる。
例えば体育祭となれば、クラスメイト達からリレーの選手を押し付けられ、いつもはボッチの私に関わろうとすらしないのに、こういう時だけはコードレスの電動ドライバーのように、手のひらくるりとするものだから心底呆れるばかり。
さっさと充電切れしてくれと願う。
私は自分の時間ぐらい、好きなようにして過ごしたいのにさ……身勝手な話だよな?
その一方で相変わらず、勉学を怠らずに励んでおけばテストの結果、通知表ともに記された優秀な成績に私はほくそ笑む。
先生方からの印象はよく、優越感に浸れてとても気分がよくてご機嫌だ。
私は暇と学業を全うしている、ただそれだけのこと。
なにも知らない、知ろうとしないクラスの奴らの嫉妬なんてどこ吹く風、お前らはいったい何をしていたんだい?
ねぇ、今どんな気持ち?
どんなに頑張っても努力しても勝てないって時の気持ちってさ、どんな感じ?
努力するだけじゃどうにもならない、現実ってものを知ってうちひしがれるってどんな気持ち?
良い人生経験だろ?
……ま、そんな事を思ったままに口が滑ればさ、私がイジメの標的になるのは言うまでもなかったね……だが、残念だったな。
私はさ、暇をもて余してたから逃げ足が速くなったし、無尽蔵な体力を手にしただけじゃあないんだ。
ここに武道の心得があるとなれば、鬼に金棒、小さな小さな私を侮るとどうなるかな?
私はね、とても気が強いぞ?
私はね、マリアナ海溝よりも深く根に持つタイプだぞ?
売られた喧嘩で泣き寝入り?……舐めるなよ?
大義名分は私にあり、何かトラブルがあってもさ、成績優秀な者の特権は素晴らしいの一言に尽きる。
小さな小さな私が正当防衛しようが、過剰防衛しようが、こっちから手を出して殲滅しようが、大抵は軽い注意で済み、そのうちみんなまるで死んでいるかのように静かになったよ。
暴力には暴力で対抗する、実にシンプルだ。
まさにヒーローそのものだろ?
最高に気分がいい、そんなご機嫌な毎日を私は送っているのさ───。
◇
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