第08話 奇術師 vs 魔法剣士

 陽介は一花の体を軽く押してから、後ろに下がった。陽介と一花の間を裂くように、青白い斬撃が通過する。壁に当たり、電流が走る様を見て、それが雷撃であったことを陽介は見抜いた。


 鋭い殺気。金髪ツインテール少女が剣を振るって、陽介に斬りかかる。陽介は右手の人差し指と中指の白刃取りで、その剣を受け止めた。


「なっ!?」と驚く少女。


「指だけで私の剣を!?」


「なぁに、ちょっとした奇術マジックですよ」


 陽介は不敵に笑うと、左手の拳で少女を攻撃しようとする。が、少女はバックステップで下がると、陽介と距離をとり、剣を構えた。


(へぇ。やるじゃん)


 陽介は感心し、左手にトランプを隠しながら考える。


(不審者と勘違いしている少女と戦う。こいつは――ウケるだろうなぁ)


 陽介が次の手を考えていると、一花が叫んだ。


「絵麻! 待って! その人は――」


 陽介は一花に向かって素早くマシュマロを投げた。マシュマロが口に入り、一花がむせる。陽介としては、もう少し目の前の少女――雷塚絵麻との展開を楽しみたかった。


 絵麻が陽介を睨む。


「あんた、一花に何をしたの?」


「さぁて、何でしょうね」


「……許さない」


 絵麻の持っている剣が電流を発しながら、青白い光を帯びる。


 絵麻が駆け出した。


(あれを直で触ったら、感電しちゃうかもな。――普通の人間ならね)


 陽介はやはり右手の人差し指と中指で剣を掴み、左手を振るう。絵麻は体をくの字にすることで避けようとした。――が、陽介はトランプを飛ばし、絵麻の鎧に刺す。


「なっ!?」


 驚く絵麻。その隙を見逃さず、陽介は絵麻の剣を横に流しながら、飛び上がって、回し蹴りで絵麻の顔を狙う。すると――絵麻は頭突きであえて陽介の左足に当たりにきた。


「えっ!?」


 今度は陽介が驚く。左足を振り抜くつもりであったから、空中でバランスが崩れる。何とか着地するも、足が大きく開き、腰がそれる。逆四つん這い状態だ。


 絵麻が剣を振り下ろす。陽介は逆四つん這い状態のまま、手足を果敢に動かし、後方に下がる。その様は仰向けで逃げるゴキブリのようであった。


「逃げんな!」


 絵麻は返し刀の青白い斬撃で陽介を狙う。


 陽介は素早い後転で態勢を立て直すと、正拳突き――からの凄まじい拳圧を放った。ぶつかり合う拳圧と斬撃。爆ぜるような音がして、斬撃は消滅する。


「えっ!? どうやって?」


「なぁに。これもちょっとした奇術ですよ」


 再び驚く絵麻。陽介はシルクハットを被り直しながら、にやりと笑う。


「素晴らしいの一言に尽きる。あなたも良い奇術師マジシャンになれますよ」


「は?」


「ま、待って、絵麻!」と一花が絵麻に抱き着き、絵麻の動きを止める。


「ちょっ、一花。これじゃあ、戦えない!」


「戦う必要ないから! 彼があたしを助けてくれたんだから!」


「……えっ、本当?」


「う、うん!」


「なら、何であの人はそのことを言わないの?」


「それはそう」と言って、一花は陽介を睨む。


「ちょっと、陽介。どういうつもり?」


「いやぁ、面白そうだったんで」


「あたしたちは面白くないんだけど」


 一花に怒られて、陽介は首を竦める。


「ウケると思ったんだけどなぁ」


 なおも一花が批判じみた視線を送ってくるので、陽介はシルクハットを取って、頭を下げる。


「すみません」


「……よろしい」


 一花は絵麻に視線を戻す。絵麻はまだ困惑しているようだった。


「ごめんね。ちゃんと説明するから」


 そして一花はここまでの事情を話そうとしたのだが――そこであることに気づく。


「あ、いないっ!?」


 倒れていたはずのナイトがいなくなっていたのである。

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