第04話 水面流消失奇術

 配信ネタが思いついた陽介は、日を改めて八王子ダンジョンに入る。


 その手には撮影用のドローンがあり、そのドローンをアイテム化した。これにより、ドローンを外部へ持ち出すことはできなくなったが、ダンジョン内の様子は撮影できるようになる。アイテム化しない場合、ドローンはダンジョン内の情報を処理することができず、エラーになってしまうことが知られていた。


 陽介はアイテム化したドローン起動し、スマホに接続する。処理後の映像が送信されてくるだけなので、スマホはアイテム化する必要が無かった。いくつかチェックを行い、問題なく撮影できることを確認する。


「よし。じゃあ、軽く運動してから配信するか」


 陽介は、ダンジョン内を歩き、ドローンが追尾できていることを確認しつつ、モンスターを倒して、体を温める。


 そして、準備は整ったと判断し、撮影を始めることにした。


 配信モードに切り替えて、ドローンに微笑みかける。


「こんばんは。世紀の大奇術師マジシャン、水面陽介です。師匠の下で日夜奇術マジックの練習に励んできた私が、今日は皆さんにとっておきの奇術を披露したいと思います。その名も、『水面流消失奇術みなもりゅうしょうしつマジック――消える小鬼ヴァニッシュ・ゴブリン』。この奇術を使い、一瞬でゴブリンを消し去ってみたいと思います。それでは早速、この奇術に協力してくれるゴブリンを探しにいきましょう」


 陽介はスマホで現在の視聴者を確認する。視聴者は――0。


(そのうち増えるだろ)


 陽介は気にせず歩き出し、すぐにゴブリンを見つけた。


「おっ、いましたね。しかも、一体だけ!」


 ゴブリンは陽介を認め、棍棒を振り上げて、「ききっ」と奇声を上げる。


「では、やっていきましょう。まず、この奇術には、こちらのマントを使います」


 と言って、陽介は羽織っていたマントをドローンの前で広げた。


「ききっ!」


 それで興奮したのか、ゴブリンが鼻息を荒くして突っ込んできた。


 陽介は気にせず、ドローンに語り掛ける。


「こちらのマントを掛けて、上から押してあげるだけで、ゴブリンは消えてしまうんです。いいですか。よく見ていてください!」


 陽介はゴブリンを見ることなく、ゴブリンが振り下ろした棍棒を避ける。


「きぎっ!?」


 驚いたゴブリンの声。そして、ゴブリンの腹部に膝蹴りを一発。くの字に折れたゴブリンの体を伸ばすように、アッパーで顎に一発。その流れで伸びたゴブリンの体にマントを被せ、ゴブリンの輪郭を明らかにさせた。


「では、一瞬で消したいと思います」


 そう言って、陽介は布越しにゴブリンの頭を掴み、地面に叩きつけた。すると――ゴブリンの輪郭は一瞬で消え、布が地面に広がる。


 数秒の間があってから、陽介はドローンに微笑みかけた。


「はい。ご覧のように、ゴブリンが一瞬で消えてしまいました。でも、本当に消えているのでしょうか? この布を取って確認してみましょう。いきますよー」


 そう言って、陽介が勢いよく布を巻き取ると、そこには何もない地面が広がっていた。


「消えていますね! はい。マジッ~~~ク」


 陽介は両手でスペードを作り、ドヤ顔になる。それが陽介の決めポーズだった。


「ということで、私の奇術はどうだったでしょうか?」


 ドローンの向こう側にいるであろう視聴者に問いかけ、スマホで確認する。反応は――なし。視聴者も――0のまま。


 陽介は急に虚無感のようなものを感じた。


 それで、慌てて手を振る。


「こんな感じで奇術を披露していくので、よかったら、チャンネルへの登録お願いします!」


 陽介はドローンに手を振っていたが、しばらくすると、スマホを取り出して、配信モードを終了する。


「うまくいったとは思うんだけど……」


 念のためにアーカイブを確認する。そして、納得した顔で頷いた。


(いいね。これは、ウケるだろうなぁ)


 しかし、これで視聴者が0とはどういうことか。


(まぁ、タイミングの問題かも)


 今は平日の昼だから、視聴者が少なかった。陽介はそう結論付ける。


(アーカイブを残しておけば、そのうち人も増えるだろ)


 しかし、世の中そんなに甘くはなかった。


 一週間後。陽介は、府中ダンジョンの休憩所で頭を抱えていた。自分の配信が思っていたよりも伸びっていないからだ。まず、配信中の視聴者は0。最初に配信したアーカイブの再生数は232。コメントは0である。また、他にも2回ほど配信を行ったのだが、どちらも再生数が100前後で止まり、コメントは当然無い。


(ウケると思ったんだけどなぁ)


 陽介はため息を吐く。参考になるようなコメントも無いし、どこを直すべきかがわかなかった。


(どうしよう)


 一般的には、配信を続けていれば、見てくれる人は増えるとは言われている。だから、配信し続けるのが良いのかもしれないが……。


(ただ、質の低い配信をやり続けても、見てくれる人は限られるだろうし、そもそもの質を上げるための努力もした方が良いだろうね)


 では、どうするか? 虎子に相談するのも一つの手だろう。配信の種類は違うが、参考になる部分はあるはず。


(あとは、他の人気配信者の配信とかを研究するのも大事だよな。というか、それくらい最初からやっておけよ)


 陽介は自分に呆れる。と言っても、陽介はウケる自信があったから、その辺の研究はサボっていた。しかし、現実を見せられた今は、研究せざるを得ないだろう。


 ということで、陽介は人気配信者の配信を観ようとした。そして、ライブ中の配信があることに気づく。見ると、ミディアムの黒髪で、愛らしい顔つきの少女が映っていた。彼女の背景に映る地形を見て、陽介は既視感を覚える。


(ここって、府中ダンジョンじゃね?)


 一見すると、どこにでもある洞窟のように見える。しかし陽介は、昔から地層などを眺めるのが好きだったから、似たような地形でも微妙な差異を見分けることができる変態技能を有していた。


(ふーん。ここにいるのか)


 陽介は配信者のチャンネル登録者数を確認する。約5万人。それなりに知られている人物らしいので、驚く。


(もしかしたら、アドバイスが貰えるかも。でも、ライブ中のところに行くのは、マナー違反だよなぁ)


 陽介は悩み、数分の思案の後、頷く。


(大丈夫。迷惑は掛けないようにする。ちょっと見るだけだから)


 陽介はそう自分に言い聞かせ、立ち上がった。

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