第14話 わたしの決意

 結局、ずっと考えしまっていた。そのせいで、算数の時間より後の授業は、ノートがちゃんと後で読めるように取れているかあやしい。

 あんまりぐるぐるしていたから、頭の中と外の世界の間がよくわからなくなっていた。

 思い付いたわたしは、


「あっ」


 って、声を上げてしまった。

 今が帰りの会のまっただ中だということも忘れて。教室中に聞こえるような声で。

 引っ込めようと思っても、もう遅い。口から声は飛び出ていた。

 みんなの前で明日の連絡をしていたらしい先生が、不思議そうな顔でわたしのことを見る。

 注目されるのなんか嫌なのに。最近、こんなことばっかりしている気がする。本当は誰にも気にされないで本を読んでいる方が好きなのに。


「長尾さん、どうしたの?」


 先生に言われても、すぐに反応できない。ハキハキ答えられたらいいのに。どうしても、こういう時は止まってしまう。

 思い付いたらどうしようと思っていたんだっけ。そうだ。どうしようとも考えていなかった。ただ、考えていただけなんだ。意味がないかもと思いながら考えていたんだ。


「大丈夫? しゃっくりか何かだった?」


 先生が首をかしげる。

 違う。違う。

 先生がわたしから目をそらす。

 そのまま、さっきの話を続けようとする。

 待って。待って。

 今、言わなくちゃ。

 これならきっと、さっきみたいなことにはならないから。

 息を吸って、ぎゅっと親指をにぎって。

 言わなくても、いい。自分から注目されることなんかしなくてもいい。

 でも、


「先生!」


 わたしは立ち上がって手をあげた。

 今、言わなくちゃ。もう、きっと言えなくなる。

 もういいかってあきらめて、そのままになってしまうから。




 ◇ ◇ ◇




「ねえ、真衣ちゃんのクラスがやるのって劇じゃなかったの?」


 一緒に帰っている香苗ちゃんに言われてどきっとする。


「うん。劇だよ」


 すぐには答えられなくって、ちょっと間が開いてしまってから答える。


「わざわざカーテン閉めてたりしてあやしくない?」

「そ、そんなことないよ」

「そう? ほら、太陽の光とかまぶしいからじゃないかな」


 言いながら、なんかずれてるなあと自分でも思う。だけど、言い訳が思い付かない。


「それに、えっと。そうだ。あ、あのねっ」


 そして、言葉に詰まりながら、わたしは続ける。


「香苗ちゃんと話してから、わたし本当に書けたから、脚本」

「がんばって書いてるって言ってたもんね」

「でも、香苗ちゃんと話さなかったらきっとできてなかったから、ありがとう」

「そうかな。前に真衣ちゃんが言ってたこと、そのまま言っただけだし、真衣ちゃんの力でしょ」


 そう言いながら、香苗ちゃんはちょっと照れくさそう。

 よかった。ちゃんと、お礼も言えた。ずっと言いたかったんだ。あわてて言っちゃったけど、伝わったかな。

 話題もちゃんと変えれた。

 あれは、当日までナイショだから。もちろん香苗ちゃんにも。

 ごまかそうとしたのバレたかな。やっぱり、練習している声とか音が他のクラスに聞こえちゃってるかな。

 でも、香苗ちゃんも何をやるか、ちゃんとはわかってないみたい。

 せっかくならびっくりさせたい。

 香苗ちゃんがわたしの顔をのぞき込む。何か、聞かれる?

 あんまり突っ込んで聞かれると、隠せる自信はないんだけど。


「なんか、最近真衣ちゃん楽しそう?」


 うれしそうな顔で香苗ちゃんは言った。

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