第12話 このままでいいのかな
先生の言葉が効いたのか、結局あのままのわたしの脚本でいくような感じになってしまった。
わたしのことを書いたんじゃないか、なんて言う人もいなかった。心配しすぎだったみたい。自分では気になってしまうけど。
わたしが書いたものがそのまま使われると言われれば、うれしくないわけはない。もちろん、わたしなりに一生けんめい書いたからそのまま劇にしてもいいんじゃないかと思ってはいた。
だけど。
「てか、こんなのやるくらいならダンスとかの方がよかったんじゃね? どうせオレらモブだし」
さっきの休み時間に小林君が言っているのを聞いた。
それに、わたしに聞こえないようにクラスの女の子たちが廊下で話しているのも、今トイレに行った帰りに聞こえてしまった。
「私、本当は合唱の方がよかったなあ。劇とか、セリフしゃべるの苦手だし」
「でも、月からのお迎えの役ならほとんど立ってるだけじゃない? 楽そうではあるねー」
「そうかも。でもせっかくなら歌いたかったな」
会話が聞こえてきた時点で曲がり角で足を止めたから、向こうはわたしが聞いていたことに気付いていないと思う。
別にわたしに言っているわけじゃなかったと思う。思いたい。
小林君みたいにわざといじわるしているわけじゃないと思う。思いたい。
でも、みんな納得なんてしてない。それはわかる。
先生はあのままでいいって言ってくれたけど、本当にあれでいいって思っているのかな。
せめて、さっきの話し合いが帰るすぐ前だったらよかったのに。今日は先生が二時間目の国語を特別に学級会にしようと言ったから、まだ全然帰る時間になんかなっていない。
早く帰りたいな。
帰って一人で本を読みたい。せっかく書き終わったんだから、何も考えずに好きなことをしたい。書いている間、脚本のことばっかり考えていたから。
そういえば、日記も書いていない。ずっと日課にしていたのに。毎日の楽しみだったのに。最初は書く元気がなくて書けなかったけど、昨日はもう忘れていた。
今日開いたら、何を書こう。
『やっと終わった』って書く?
もう、今日は帰っても脚本のことを考えなくてもいいんだ。先生がこれでいこうって言ったんだから。わたしが書いた脚本のままでいいはずなんだ。
もう悩まなくてもいいんだ。
チャイムが鳴った。授業が始まる。ぼんやりしてちゃいけない。
起立。礼。
着席。
面白いって、言われた。
かぐや姫が帰らない理由がわからないって言われた。
確かに、そんなにうまくはないと思う。初めて書いたんだし仕方がないと思う。
先生もこのままでいいって言ってたし、このままでいいはず。
それに、本当のことを言うと、書いているときはすごく楽しかった。
先生が黒板に数式を書いている。わたしはそれをノートに写す。計算、しなくちゃ。
知らないで読んだら、元の話とわからないくらいの違いしかなかったかもしれない。でも、ここを変えたらいいんじゃないかな、なんて考えるのはわくわくした。
さっきの時間、みんなに読まれるときにはすごく緊張した。読まないで欲しいとも思ってしまった。だけど、書いている間はすごく楽しかったんだ。
書いている間は誰にもじゃまされない。頭の中で、どれだけぐるぐると考えていても誰にも文句は言われない。時間がある限り好きなだけ、考えていられる。
自分の好きなように世界を、お話を作ることができる。
すごくすごく、楽しかった。
でも、みんなに伝わったわけじゃない。面白いと思ってもらえたわけじゃない。それは、さみしい。
それに、なんだろう。この気持ち。
悔しい?
そうだ。香苗ちゃんが言っていた。わたしが書いた脚本で、いじわるした小林君を悔しがらせればいいって。
これじゃ、逆だ。
悔しがらせることもできなかった。わたしの方がずっと悔しい。
がんばって書いたのに。がんばって考えたのに。
でも、伝わらなきゃ意味がない。面白いって、思ってもらえなきゃ意味がない。
本当にいいんだろうか。このままで。
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