第11話 文句ばっかり!

「かぐや姫が若者たちに持って来いって言う宝物。これ作るの?」

「わー、めんどくせー」


 みんな好き勝手言ってる。それも大変かもしれない。

 かぐや姫が言うものを持ってきた人が、姫と結婚できる。確かにすごい宝物を持って来て欲しいって言うから、作るのも大変かもしれない。

 だけど、わたしが大事だと思ったのはそこじゃないんだけどな。

 誰も気付いていないんだったら、説明した方がいいんだろうか。できれば、読んでわかってもらえたらいいなと思ったんだけど。そのためにわかりやすく書いたつもりなんだけど。


「というか、姫わがままじゃない? そんなすごいもの持って来いとかさ」


 だから、違うんだって。そういう理由じゃないんだけどな。

 でも、すぐに決められないかぐや姫なんて、読み直していると、わたし自身みたいに思えてくる。考えるのが遅いかぐや姫。思い付いたときはいいと思ったんだけど。

 きっと彼女は、処理落ちのかぐや姫。わたしと同じ。

 説明して自分のことなんじゃないの、なんて言われたらどうしよう。


「かぐや姫が帰らないのはいいけど、なんで残ったかよくわからないね」

「それ言ったら、帰る理由だってわからなくない?」


 そんな声がわたしの心にぐさりと刺さる。

 わたしの考えでは結婚相手も自分じゃ決められなかったかぐや姫が、最後に地球に残るってことを自分で決めたつもりで書いていたんだけど。かぐや姫が悩んで悩んで出した答え。

 うん。だけど、わたしもそう言われるとわからなくなってきた。小さい頃、かぐや姫を読んで思っていたこと。

 ウソの宝物なんかを持ってくるような若者たちとなんか、結婚しても絶対に幸せになんてなれないって。

 だから、全部ことわって。今度は帝が結婚を申し込みに来る。なんとなく、帝はいい人なのかなって思っていた。

 月からのお迎えが来ると言ったかぐや姫のことを帝は守ろうとする。だから、いい人だと思っていたのかな?

 でも、なんで帝だったらいいんだろう。月に帰っちゃダメだと思ったんだろう。帝なんてパッと出てきていい人かどうかもわからないのに。

 大好きなおじいさんとおばあさんがいたから帰らなかった?

 じゃあ、月に本当のお父さんとお母さんがいたら?

 かぐや姫って、どうなると幸せなの?

 考えれば考えるほどわからなくなる。


「というか、モブキャラの方が多すぎじゃね? 最後に出てくるその他大勢とかやりたくねーんだけど」


 わたしはハッと、現実世界に引き戻される。小林君だ。


「なら、かぐや姫多くすれば? そういうのよくやるし」

「それなら帝も多くすればいいんじゃん?」

「かぐや姫とか、子どもっぽくない?」


 みんなが口々に言い始める。

 ええと、これはわたし一人に言っているわけではなんだよね。話に対して言われているわけだけど。

 かぐや姫とか、帝とか、増やしたくないんだよ。そこは元のお話どおりの方がいいと思うから。

 子どもっぽいかなとも思ったけど、ラストを変えたいって思ったのはこれだったから。今はよくわからないけど。

 言いたいのに、クラスのみんなが言っていることに全部返事をするなんてわたしにはできない。

 もう、ぐっちゃぐちゃだ。

 そんなことを言うなら、最初からみんなで考えればよかったのに。わたし一人に書けなんて言わなきゃよかったのに。


「みんな、ちょっと静かに」


 先生の声がした。まだ教室の中は少しざわざわしているけど、さっきよりは静かになる。


「色々な意見が出ているのはわかるけど、先生はこのままのお話でいいと思います」


 ええー! と、声があがるけど先生は続けて言った。


「長尾さんは一人でよく考えたと思います。一人でがんばって書いてきたんですよ。それに、長尾さんが脚本を書くことに決めたのはクラスのみんなの意見ですよね。もし、それでもまだ何か言いたいことがある人はいますか?」

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