第4話 ちょっと待って!?

 六時間目を少し早めに終わって、話し合いの時間は始まった。昨日、劇には決まったけれど、まだ何をやるかは決まっていなかった。だから、今日は内容を決めることになっていた。

 やりたいお話があったら家で考えてきてくださいって、昨日言っていたっけ。

 わたしはもう目立たないようにしたいから、手をあげて発言する気は全くない。そういうのは、クラスの目立つ子たちが何個かやりたいお話を言って、その中から選ぶものなのだ。

 本で読む大好きなお話みたいに冒険するようなのができたらいいなと思うけど、そんなのきっと劇でやるのは難しい。

 だからきっと、やりやすいお話の中から選ばれたりするんだ。わたしが願うのは、できればセリフのない目立たない役がいいなとか、大道具の係でほとんどなにもしていなくてもいいようなやつがいいな、ということくらいだ。

 気付けば、また黒板には学級委員の佐藤さんのきれいな字が並んでいる。

 わたしが頭の中でぐるぐるしていた間に、話は進んでいたみたいだ。だけど今日はまだ投票に入っていない。ほっとする。

 昨日みたいになるのは困る。今度こそ、ちゃんとみんなと同じように手をあげて目立たないようにするんだ。わたしのせいで決まったなんて言われないようにするんだ。

 はい、と手があがる。


「せっかく高学年になったんだし、他と同じようなのやっててもつまらなくないですかー?」

「同じようなのじゃない劇って?」


 不思議そうな声も聞こえてくる。

 定番のものではないお話をやりたいということだろうか。


「オリジナルでなにかやるっていうのはどうですか?」

「オリジナル!? どんなの?」

「そこまでは考えてないけど」

「でも他のクラスと違うやつって楽しそうじゃね?」


 確かに、いつも似たような劇ばかりではつまらないとは思う。だけど、新しい話を考えるのも大変なんじゃないかなと、ちょっと心配になる。

 いつもと違う劇をやりたいって、それだけ考えてきたのかな。わたしだったら、なにをやるかまで考えないとみんなの前でなんか絶対に意見を言えない。考えなくても言えちゃうのってすごい。


「オリジナルとか面白くなるかなあ」

「あっ! それなら、元からあるお話をちょっと変えるとか? それならできそうじゃない?」


 そんなに簡単かな、と思ってしまうけれどきっとできる子もいるんだろう。すごいなあ、なんてわたしは考えていた。

 オリジナルの劇か。確かに面白そう。

 ファンタジーとかは、やるの大変そうだな。誰がお話を考えたりするんだろう。

 どうやって舞台を作るんだろう。段ボールに絵を描いた紙をはったりして? お母さんに連れて行ってもらったみたいな大人がやる劇とは違うよね。

「じゃあ、脚本を書くのは長尾さんでいいですか?」


 わたしはハッと我に返る。またぼんやりしていただろうか。

 一瞬、何を言っているのかわからなかった。わたしの名前を言っていた気がする。


「長尾さんいいですか?」

「え、えっ」


 情けないけど、反応がやっぱり少し遅れる。やっぱりわたしのことを言っていたみたいだ。


「だって、読書感想文とか賞取ってたし、そういうの書けるんじゃね?」


 そう言ったのは、となりの席の小林君。なんだかやけにうれしそうな声。なんで?


「劇もやりたいみたいだし。昨日、長尾さんの一言で決まったじゃん? だからいいかと思って推薦したんだけど」


 え? 小林君が推薦した? わたしを?

 わたしは横目で小林君をのぞき見る。目が合った! そらさなきゃと思ったとき、小林君がニヤッといじわるそうな顔で笑った。

 わたしは急いで目をそらす。


「うんうん。長尾さんならいつも本とか読んでるし、そういうのできそうだね!」

「わかるわかる~」


 しかも、わたしがどうすればいいんだろうなんて思っている間に話が勝手に進んでいく。

 みんなの声が重なって、頭に入ってこないけどわたしがやることを賛成しているのはどうしたってわかってしまう。

 本気で、言ってる?


「じゃあ、決まりでいいですか?」


 はいはーい、とみんなが手をあげる。

 わたしは手なんかあげるわけないけど……。勢いに押されて、どうしていいのかわからなくなって、声なんか出せるわけなくて。

 どうしてだか、首を縦にふってしまったんだ。

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