第2話 帰り道
「大変だったんだね」
本当だよって、笑いながら答えられるほどわたしは強くない。笑い飛ばしてしまえば、別になんでもないことにできるのに。
学習発表会でなにをやるか話し合っていたのは六時間目の学級会だった。だから、あの時間が終わってすぐに帰りの会があって、今は友だちの
香苗ちゃんは仲良しの友達なんだけど、別のクラスだ。
今年のクラスにはちょっと話すような子はいるけど、家に帰ってまで遊ぶくらい仲がいい子がいない。
だから、さっきのことを言い合えるような子がいなくて、香苗ちゃんと合流して話を聞いてもらいながら帰っている。
「そいつ、ひどいね。わざわざ言わなくたっていいのに。真衣ちゃんがあげてないとかさ。言わなきゃ誰も気付いてなかったんでしょ?」
「う、うん」
「まったく、ひどいよね」
怒っているらしく、香苗ちゃんはかっこよく腕組みなんかしている。
香苗ちゃんはいつもわたしの代わりに怒ってくれる。だから、わたしは安心する。
「考え込んでるうちに進んじゃってただけなんだから、そっと教えてくれればいいのに」
「あ、うん。なんか、どれがいいかなって考えてたら、いつの間にか話が進んじゃってて」
「そっかあ。しょうがないのにね。真衣ちゃんは考えるのに時間かかるし、人それぞれだもん」
フォローしてくれているのはわかる。でもやっぱり、わたしってほかの人よりぼんやりしてるよね、と落ち込んでしまう。
人それぞれで、みんなに置いていかれるのがどうしてわたしなんだろう。みんなみたいにすぐに決めることができればいいのに。
「真衣ちゃん、結構真面目だもんね。あたし、あんまり考えないで手あげちゃったりするから」
あはは、と香苗ちゃんが笑う。
うらやましいな、と思う。
わたしもあの時、考えたりしないでみんなに合わせてなんでもいいから手をあげちゃえばよかったのかな。
笑ってそういうことが言えちゃう香苗ちゃんがうらやましい。
「でもさ、そうやってちゃんと考えてる真衣ちゃんはすごいと思うよ。あたしは」
「ええ、そうかなあ」
わたしはわたしのことをすごいなんて全然思えないのに。
「ちゃんと考えた方が後で失敗したー! とかならないでしょ。あたし、すぐ突っ走って失敗しちゃうから」
「うーん」
そう言われても、なんだか違う気がする。
さっきだって、すぐに決めていればあんなことにならなかった。
香苗ちゃんは後で失敗したと思うのが嫌だと言っているけど、わたしは止まっている間にすでに失敗している。それなら、すぐに考えられる方が、決められる方がいいに決まってる。
「でもさ、劇って楽しそうだよね。うちのクラスは合奏に決まっちゃったからさ。劇って、自分とは別の人になれるみたいで楽しくない? どうせやるなら、楽しいやつがいいよね!」
「香苗ちゃんのクラスは合奏なんだぁ。合奏も、楽器の練習しなきゃいけないから大変だよね」
「そうなんだよ。楽器ってあんまり得意じゃないんだよね~」
うんうん、とうなずきながら私の頭には別のことも浮かんでいた。小林君のことだ。
小林君は劇に決まってからも、俺はダンスがやりたかったのにとか言いながらわたしのことをにらんでいたんだ。そんなことを言われても決まってしまったものはしょうがないのに。
わたしだけのせいじゃないのに。だって、わたしが劇と言うまでは、劇とダンスは同数だったんだ。
別に、わたしの一言で決まったわけじゃない。もっと早いタイミングで手をあげていたら、みんなの中にまぎれたただの一票だったのに。
あんなタイミングであげてしまったからいけないんだ。
「大丈夫? 他にも嫌なことあった?」
「ううん、大丈夫」
わたしは首を横に振ってしまった。
香苗ちゃんにはじゅうぶん話を聞いてもらった。しかも、わたしの情けない話を。
だから、もうこれ以上言ってしまったら、悲しくなるような気がしたからだ。
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