013 もう二度と来るんじゃないぞ。完

 一週間。俺が精神的に立ち直るまでの時間だ。


「ふはははは! 二刀流になった俺は無敵だ!!」


 俺はオーク斧を右手に、先日拾ったレイピアを左手に装備してカッコイイポーズをする。

 以前は、持つことも出来なかったオーク斧だが、筋トレのおかげか、それとも謎の全能感の副作用か、今ではなんとか斧を振ることが出来るようになっていた。


「レイピアと斧の二刀流。パッと見はダサいだろう。だが! それがいい! ユニークだからこそ価値があるのだ!」


 俺は半身に構える。レイピアを前に出す。武術の経験はないが、自分流に工夫する。


「まずは……ジャブだな」


 シュッ、とレイピアを素早く突き出す。これは中距離の敵を攻撃・牽制することが出来る。


「そして……メインの斧だ!」


 レイピアをかいくぐり、懐に飛び込んで来た妄想上の敵に斧を振り下ろす。その際は、体重を乗せることを意識する。妄想上の敵は絶命し地面に倒れた。


「これだな。ノーマン二刀流と名付けよう」


 一人でニヤニヤしていると視界の端から何かが飛んでくる。


「ぶげっ」


 カエルの舌が顔面に当たった。


「プッ」


「こんにゃろう! ノーマン二刀流の錆にしてくれる!」


 ……結果は完敗だった。カエルの舌はリーチが長い上に素早い。レイピアでは到底届かないし、斧では振りが遅すぎた。そもそもノーマン二刀流の錆って何だよ。言うならレイピアか斧の錆だろ。


「くっそおおお。いつか覚えとけよぉ!」


 俺はヤケクソ気味に筋トレを行った。その後、日課をこなして一息ついていると


 ガランガラン!


「!!」


 拠点の周辺に設置していた鳴子が鳴った。これは魔物が近づいたら分かるように設置していた物だ。鳴り方からして北の方向だ。俺は武器を装備すると全力で向かった。



 ――拠点の外壁から外を見ると、5匹のゴブリンの群れだった。しかし、明らかに違和感がある。


「なんか見た目が違う奴が居るな……」


 肌の色が赤いゴブリンが居る。そして、そいつが命令をすると、普通のゴブリンが拠点の壁を攻撃し始める。


「フッ、ノーマン二刀流の錆にしてくれる!」


 俺は斧を格納革袋にしまい、代わりに棍棒を取り出して、直下のゴブリンめがけて棍棒を投げつけた。


「ゴギャッ」


 棍棒が当たったゴブリンは首が折れて死んだ。


「オラ! オラァ!」


 更に棍棒を2本取り出して、投げつける。1本は避けられたが、1本は命中し、2匹目のゴブリンを倒した。


「ギャギャ!!」


 赤ゴブリンは指示を出し、ゴブリンを後ろに下がらせる。


「さすがにあそこまで棍棒は届かないな。よっと!」


 俺は外壁から飛び降りる。格納革袋から斧とレイピアを取り出す。赤ゴブリンがギャーギャー喚くと手下のゴブリン達が俺に向かって襲い来る。


「まずは左!」


 出来るだけ速くレイピアを突き出す。そしてすぐに手元に引き戻す。それを連続で何度も繰り返す。ゴブリンの急所は正直よく分からないが、とにかく命中させることを優先し、胴体を中心に狙う。


「ギギャア……」


 2匹のゴブリンはレイピアを受ける度に痛みで後退し、再度挑みかかる行動を繰り返し、最後にはダメージで動けなくなった。


「すまんな」


 2匹のゴブリンに対して、斧でトドメを刺す。思ったより痛そうで少し同情してしまったが、襲って来たのは向こうだ。


「ギィィー!……クソガ!」


 赤ゴブリンは悔しそうに地団駄を踏むと逃げ去っていった。


「もう二度と来るんじゃないぞ。完。……とはいかないよなぁ」


 俺は俺の平穏を守る為に行動しなければならない。このままゴブリンを放っておけば、必ず第二第三の群れが襲撃してくるだろう。その為には奴等の本拠地を潰さなければならない。


「ゲコ!」


 何故か横に居たカエルが、ビシッと舌を伸ばしゴブリンが去っていった方向を指す。


「言われなくても分かってる……追うぞ!」


 俺は覚悟を決めると赤ゴブリンを追った。

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