011 唯一なのにBなのかよ
「答えは――”NO”だ。そして、ハイダという男はもう死んだ。これから俺は……ノーマンだ!!」
答えると、全身に力が満ちた。
「はぁー? 何言ってんだコイツ!? カトゥーさん、もうやっちまっていいですよね!!」
グエンが再度鉈を振り上げ、斬りかかってくる。
俺は革袋からオークの斧を取り出す。前回は重すぎて持てなかったが、今なら問題ない。
ガキン!
グエンの鉈を弾き返した。
「うおっ! 何だこいつ! 俺の鉈を弾き返しただとぉ!?」
「兄貴! オイラも加勢するぜ!」
「よーし、ホイ! フォーメーションBすっぞ!」
「分かったよ兄貴! オイラ達唯一のフォーメーションBだね!」
「唯一なのにBなのかよ」
「うるせぇ! とにかくこれでテメェは終わりだ!」
俺のツッコミに、グエンは顔を真っ赤にして激昂する。
「いくぜ兄貴! せーの!」
「おう!!」
2人が左右から同時に斬りかかってくる。確かにこれは厄介なフォーメーションだ。今、俺が持っているのはオークの斧1つだけだ。グエンの剣を受け止めればホイが、ホイの剣を受け止めればグエンが俺に襲いかかる、というわけだ。
「だが、これならどうだ!」
俺は左手を革袋に突っ込み、棍棒を取り出す。そして、グエンにはオークの斧で、ホイには棍棒で迎え打つ。
グエンとホイはあっけなく弾き返され、たたらを踏んだ。
「ぐあ! こいつ、なんつー馬鹿力だ!?」
「兄貴! どうする!?」
「カ、カトゥーさん、お願いしやす!」
「いいだろう。ハイダ君、いや、ノーマン君だったか。彼の顔を見ているとどうにも痛めつけたくなってしまうのだよ。ここからはB級冒険者である私が相手をしてやろう。グエンとホイは手を出すんじゃないぞ」
「「へ、へい!」」
カトゥーはレイピアと呼ばれる細長い剣をシャランと鞘から抜き、構える。
「少しずつ切裂いて、断った事を後悔させてやろう」
カトゥーは静止していた状態から爆発的な加速を行い、あっという間に目の前に接近してくる。これがB級冒険者の力か。
だが、動きが捉えられないほどの速度ではない。今の俺は動体視力も大幅に向上しているのだ。そして、向上しているのは動体視力だけではない。
「この
カトゥーのわざと急所を外した攻撃を全て斧で叩き落とした。
「くっ!! 思ったよりやるじゃないか。村人風情だと油断していたが、次は少し本気を出して……やろう!!」
またしても急速な加速で残像を残しながらレイピアを突き出してくる。先程よりも速い。
だが、問題ない。斧の刃の腹で全ての刺突を受け止めた。レイピアの刃が欠けることを期待したのだが、そのレイピアは業物なのか、全く欠けることはなかった。
「B級冒険者ってのはこの程度かよ、カトゥー」
もしかしたら恐れていた加藤課長も、実際は大したことなかったのかもしれないな。そう思うと、いかに自分の悩みがちっぽけな事だったのかと思えてくる。フッと笑いがこぼれてしまった。
「こっ、この私を! この私を笑ったなぁ!! グエン! ホイ! 加勢したまえ! これ以上私を愚弄することは許さん!!」
「了解ですぜ!」
「イエッサー!」
3方向からの同時攻撃だ。素人に対して3対1だなんて、恥も外聞もかなぐり捨ててきたな。こちらは棍棒と斧の二刀流だ。腕が1本足りない。
「……だが、問題ねぇな!」
俺はオークの斧を持つ手に力を入れる。地面を全力でぶっ叩いて地面の石や砂利を飛ばしてやればいい。そう思った瞬間、体内を巡っている力が手から斧に流れ込む気がした。斧が発光する。
「これが俺の! 全力だああああああ!!」
全力で地面をぶっ叩く。半径5メートルが一瞬隆起すると、重力を無視するかのごとく上空に舞い上がる。もちろんカトゥー達も一緒に吹っ飛んだ。
「ぎゃあああぁぁぁぁ……」
一番近くまで迫っていたカトゥーが最も高く舞い上がった。他の2人は5メートルほどだろうか。まぁ、上手く受け身を取らないと大怪我は間違いないだろう。落ちてきた3人は地面に激突。
「グハッ」
「ガッ」
「アイタッ」
「なんか1人だけ軽傷な奴が居るな」
奇跡的に受け身が取れたらしい。たしか名前は……忘れた。一番下っ端だ。
「カトゥーさん! グエンの兄貴! だいじょうぶかぁー!?」
「いや、どう見ても大丈夫じゃないだろ」
カトゥーなんて、手足が曲がってはいけない方向に曲がっている。
「くっそぉー! 覚えておけよぉーーーー!」
下っ端はカトゥーとグエンを背負って走って逃げ出した。それが意外と素早い、というか今日一で速い気がする。そのせいで、呆気にとられている間に逃してしまった。
奴らが逃げる際にカトゥーのポケットからポロッと何かが落ちた気がする。
「なんかカトゥーのポケットから落ちたけど、なんだこれ?」
一見、四角い金属に魔法陣が描かれている。その魔法陣に触れてみる。すると金属の先端から小さな火がついた。
「うわっ、魔法のライターじゃねぇか! これで夕飯が食えるぞー!」
俺がどんなに怒り、必死に火起こしをしても着火しなかった薪が簡単に燃え上がる。
俺が嬉しさのあまり踊りだすと、いつの間にか近くにいたカエルも踊りだした。
――その日の夕食は豪勢なものとなった。
ちなみに全力を出したせいで一晩中激痛に襲われた。もうしばらくは本気を出さないことをここに誓う。
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