005 ゲコゲコ

 ガキンッという音が住人の消えた村に響き渡る。


「うおらぁっ!」


「ブオォッ!!」


 俺の振り下ろした棍棒をオークの斧が迎え撃つ。とてつもない衝撃でお互いに弾かれ、相手との距離が離れる。それが幾度となく繰り返される。


「シ……ネッ!」


 オークが斧を掲げると、斧が茶色いオーラを纏い始める。そして、オークが斧を地面に叩きつけると砂煙がこちらに向かって走ってくる。嫌な予感がして全力で飛び上がると足元の地面から石のように硬そうなとげが飛び出してきた。


「断る! お前が死ねッ!!」


 俺の身体に更なる力が宿る。俺の棍棒が石棘を叩き割る。

 その瞬間に、足元に転がっていた石を蹴り飛ばす。


「ブガッ!!」


 その石はオークの片目に当たり、大きな隙を生み出す。ラッキーだ。オークは片目を押さえ身を屈めている。今が大きなチャンスだ。


「おいしょォッ!!」


 その脳天に棍棒を振り下ろす。ごしゃっという嫌な音と感触を感じつつ、一旦後ろに下がる。

 オークの身体はズンという音と共に砂煙を上げ倒れた。その後、数十秒様子を見たがオークは動かなかった。


「……はぁぁ〜〜。今回は本気マジで駄目かと思った」


 俺はその場にへたり込んだ。手足が震える。極度の緊張により大量のアドレナリンが分泌された結果だ。


「イタッ! イタタタタタ! アガガ!」


 気を抜いた瞬間、全身に痛みが走る。たしか前回も痛みがあった事を思い出す。しかし、前回よりも今回の方が痛みが強い。あまりの痛みと倦怠感に視界が明滅する。


「カハッ……」


 俺は耐えられず気を失った。




 ――ペロッ。俺の顔に違和感がある。顔が舐められているような気がする。ガバッと身を起こす。

 目の前には30センチほどのデカいカエルだ。そのカエルが俺の顔を舐めていたのだ。


「ぶえっ! ペッ! ペッ! なんだこのカエルは!?」


「ゲコゲコ」


「……」


 俺は謎のカエルと数秒見つめ合ったが、そもそもどういう状況だったのか思い出す。


「んなことより、あの後どうなったんだ……?」


 俺はカエルを見つめるのを止めて、周囲を注意深く探った。


「ゴブリンも、オークも居ないみたいだな。今この村に居るのは俺と、このカエルだけか」


「ゲコ」


「それにしても腹が減ったな。……カエルって食えるんだったか?」


 俺が再度カエルを見つめる。


「ゲ、ゲコー!?」


 カエルはこちらの思惑を感じ取ったのか逃げて行った。


「仕方がない。自力で食料を探すしかないか。腹は減ったが、何故か身体は軽く感じるんだよなぁ」


 俺はゴブリンの村を調べてみた。その結果、想像以上に成果があった。


「すげーな! 果物や魚、猪肉なんかもあるのか!」


 食料を見つけて一瞬喜んだが、これらの食料を集めたのがゴブリンであることを思い出した。生肉は止めておいたほうがいいだろう。果物も腐っている可能性がある。


「ゲコ」


 ヒュッ! パクッ!


 カエルが舌を伸ばしリンゴを掴むと口に運んだ。


「あっ! お前!」


 カエルはもぐもぐとリンゴを食べている。そして、食べ終わった。

 すると、カエルは2足歩行になり踊りだす。グルグルと回りながらひとしきり踊ると、元の位置に戻った。


「ゲコ!」


 カエルが踊っていた場所には星マークが1つ描かれている。


「なんだこれ? 星1つ? リンゴの味を評価でもしたのか? って、そんなわけないか」


 だが、リンゴが食べられることは分かった。グッジョブ、カエル。俺はリンゴを拾い上げ、齧りつく。


「うまっ! 今まで食べたリンゴの中で一番美味いな!」


 この美味さで星1つとは、カエルの味覚はどうなっているのか。シェフも真っ青の美食家だとでも言うのだろうか。


「ほれ、これは食えるのか?」


 俺は生肉をカエルに与えてみた。すると、カエルはまたしても踊りだし元の位置に戻った。


「ゲコゲコ!」


「ほぉ、この肉は星2つか!」


 地面には星マークが2つ描かれていた。

 俺は謎の生肉を焼いて食べてみた。ちなみに焼く為の火は村の焚き火を利用させてもらった。


「肉がうますぎる!!」


 どうせ生肉はすぐに腐ってしまうだろう。俺は限界まで食べた。食いきれない生肉は燻製にしてみた。少し焦がして失敗したが、ある程度は成功したと思う。


「燻製の完成だ。ふむ、燻製の完成……」


 ベシっと頬にカエルの舌が当たった後、燻製肉を奪われた。


「な、何をしやがる!?」


 カエルは踊りだし元の位置に戻った。


「ゲコ……」


「な、なんだこりゃ」


 地面に描かれていたのは描きかけの星だった。


「星0.5……」


 カエルは残念な奴を見る目でじっとしている。俺は恥ずかしくなり、倒したオークを物色することにした。



「結構いろんなもん持ってるな」


 オークの所持品を地面に並べてみた。

 ・オークの斧

 ・オークの鎧

 ・オークの篭手

 ・オークのすね当て

 ・革袋


「とりあえず装備出来るか確認だな」


 どう見ても大きい鎧だがどうしても装備したい。防具の有無で生存率が段違いに変わるのだ。


「よっと……うおっ!?」


 俺が鎧に首を通すと、鎧が勝手に縮んで俺の身体にジャストフィットした。


「鎧以外に篭手も脛当ても同じようにジャストフィットするのか。凄すぎるだろ。どんな技術だよ」


 俺は全ての防具を装備した。オークの斧を持って構えてみる。


「だ、ダセェ……」


 スーツの上に鎧と篭手と脛当てが装着され、革靴を履いている。これが今の俺の姿だ。


「めちゃくちゃダサい上に、めちゃくちゃ重ぇ……」


 非常に残念だが、俺は鎧を脱いだ。見た目だけならスーツを脱げばいいとも思うが、替えの服がないのだ。裸エプロンならぬ裸鎧など頭がおかしいとしか思えない。

 それに、このスーツは不思議と汚れていない。あれだけ走り回り、転げまわったというのにだ。今もおろしたてのスーツのように見える。どちらかを選べと言われれば着心地の良い綺麗なスーツを選ぶのは当然だろう。

 気持ちを切り替えて残りの物を見る。


「次はこの袋か」


 中を見ても暗闇が広がっているだけで逆さまにしても何も出てこない。中身を確認する為に手を突っ込んでみる。


「おぉ!?」


 袋に手を突っ込むと頭の中に袋の中身一覧が思い浮かぶ。これはいわゆる四次元ポケットみたいなアイテムということか。

 中身一覧は次の通りだ。

 ・低級ポーション 5個

 ・干し肉 3個

 ・低級解毒ポーション 2個


 取り出したい物をイメージすると手に感触があり、取り出す事が出来た。


「この革袋は便利だな! とりあえず謎の干し肉は気持ち悪いから捨てて、自作の燻製を入れておこう。他に入れる物は……」


 俺の視線が足元の鎧に向く。


「未練はあるが、防具一式も入れておくか。斧も重すぎるから入れておこう。……絶対筋トレして装備してやる!」


 俺は悔しさから筋トレを始めるのだった。

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