006 もう二度と帰ってくることはないだろう
俺は食料がなくなるまでゴブリン村で過ごした。廃村ではあるが、井戸があり水は簡単に手に入る。ゴブリンは知能が低すぎて井戸を使っていなかったようだ。そして、村をグルッと囲むように柵があるので村の中は安心だ。もちろん、柵は俺が直したんだけどな。
「ふぅー、今日の筋トレ完了。そろそろ出発するか。この村ともお別れだな」
俺がこの村に滞在している間、奇跡的にもゴブリンやオークなどの外敵が現れることはなかった。
だが、その幸運がずっと続くことはないだろう。それに今の目標は都市でも村でもいいから人の居る場所に行くことだ。
俺は名残惜しそうに村を眺める。
「もう二度と帰ってくることはないだろう。さらばだ」
俺は一人で良い感じの哀愁を漂わせながら村に背を向ける。
「モウ二度ト帰ッテクルコトハナイダロウ。サラダバー」
俺は驚き、声がした方を見る。
「ゲコゲコ」
美味しさを踊りで表現する謎カエルだ。
「お、お前。喋れるのか!?」
「オ、オマエ。喋レルノカ!?」
「なんだ。オウム返ししているだけか」
「ゲコゲコ」
俺の哀愁を漂わせる旅人ロールプレイを見られていた。恥ずかしくなった。俺はカエルを無視して出発した。
――1時間後。
俺は後ろを振り返る。暗い森の木の影に何者かが居る。気づいたらいつの間にかソレは居たのだ。それから、どこまで逃げてもついてくる。完全にホラーだ。
「おい、いつまでついてくる気だ!?」
俺が姿なきソレに話しかけると、ソレは木の影から姿を現した。
「ゲコゲコ」
「やっぱりお前かよ! ついてきても餌はやらんぞ! イタッ」
カエルの舌が伸び俺の腹を打った。追い払ってもついてくるので仕方がない。放っておく事にする。
――更に1時間後。
「どわあああああああ」
俺は狼の大群に追われていた。ただの狼ではない。かなり大型の狼だ。
こうなったのは、ただの偶然だ。俺が森を歩いていたら突然茂みから鹿が飛び出してきた。その鹿を追っていたのが狼というわけだ。あっという間に鹿は仕留められたが、次の獲物として俺が選ばれた、というわけだ。
背後から複数の狼が走る音が聞こえる。たまに遠吠えも聞こえる。
「おい、カエル! お前は俺の背中から降りろ! 重いんだよ! 囮になれ!!」
「ゲコッ!」
「痛っ!!」
カエルは舌を伸ばし俺の後頭部を叩いた。俺はカエルを囮にする作戦を諦めた。
となれば、次の作戦だ。全力で森を走り抜ける。隠れる場所、以前の巨木のように逃げられる場所を探す作戦だ。
狼に包囲されないよう全力で走り続けると、開けた場所に出た。
「崖!? 冗談だろ!?」
俺が狼から必死に逃げた結果、崖に追い込まれたようだ。崖の下には川が流れている。すぐに大狼に包囲された。
不幸が連続して起きることもあるとは言うがこれはあんまりだろう。きっとこの世に神など居ないのだ。
「く、クソったれな運命め! やってやらあああああ!」
俺は崖から飛び降りた。下を流れる川が深い事を祈るしかない。
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