CHAPTER8 ヒカリ・アキモト
「えっ光莉ちゃん!?何でこんなところに…?」
半グレ共から彼女たちを救った正体は元大阪府警の刑事、秋本光莉だった。しかし何故ここに?
「初めて会ったときから薄々あなたのことをわかってたの。すみれちゃん…じゃなくてスカーレットちゃんはただの警察官じゃないってことくらいね。それより水臭いよ、まさか私の方がお姉さんだったなんてねっ!」
2019年4月の時点で25歳だった秋本光莉は31歳になっていた。2020年頃アメリカに移り住み、"ヒカリ・アキモト"としてアメリカ国籍を得て、その後結婚し長女の"セツカ"を授かった。まだ3歳の可愛い盛りだ。
「何で私のところに?私は暗殺者よ!あなたが首突っ込んではいけないわ!」
「私はどうしてもスカーレットちゃんといたかったの。最後のキスだけじゃ物足りないよ…」
「あなたわかってる?私は後ろ指差される存在なの」
「そのために私はエージェントになったの!一緒に戦うから、また私を愛してよ!」
彼女自身もヒカリには恋心を抱いていたが、京都を後にしてからは当然会っていない。暗殺者である以上一般人との恋愛は許されることではないが、ヒカリは民間の対テロ部隊"PANSY"に所属するエージェントであるため、ヒカリは一般人の範囲に入っていない。会わず6年が経っていた現在、心の中でヒカリと再会できたことに喜びが溢れた。ヒカリの愛を口頭で確認できた直後、
「おぉっちょっと…!やっぱスカーレットちゃんのハグって豪快!」
「だってだってぇ!嬉しいんだもん!まさかこうしてヒカリちゃんに会えるなんてぇ〜!これからもよろしくね、ヒカリちゃん!」
彼女の豪快なハグを見たポールは改めて見る彼女の満面の笑みに驚きを隠せなかった。いつもなら笑顔を見せるなんて程遠いくらいのポーカーフェイスだが、彼女にもちゃんと喜びの感情があるということを知って少し嬉しそうな感じだ。
「ところでヒカリちゃんの組織もDAを追っているの?」
「うん。5人いる幹部のうち3人はスカーレットちゃんとアンドリューさんが倒して残りは2人。残りの幹部の所在はこっちで掴んでるわ。ボスの所在はまだだけど、調査を進めたら気になることもあったわ…」
「残りの2人は今どこにいるんだ?」
「ここで話すと誰かの耳に入るかもしれない。組織のセーフハウスまで案内するわ。そこで話しましょう」
ヒカリに導かれるまま歩き出し、重要な内容は話せないが、世間ばなしは絶えない。
「ところでヒカリちゃん、あなたの組織って?」
「落ち着いてから話したいな、そしたら飽きるほど話してあげるからさ。そ・れ・と、6年も待ったんだから、料理作ってよ!お・ね・が・い!キュンっ!」
6年前と比べてヒカリは超ハイテンションな性格になっていた。ヒカリのテンションに応じて彼女もハイテンションになる。歩いて約40分、ヒカリが所属するPANSYのアジトへと辿り着いた。Green Roseのセーフハウスとはかなり違い、キッチンやスポーツジムが充実している施設だ。アジトへ着くと彼女の口からは自然とある言葉が出た。
「ヒカリちゃん、6年ぶりだけど、何が食べたい?何でも作るから遠慮しないでよ?」
彼女の手料理を食べた回数でいえばヒカリは1回、ポールは2回、アンドリューは数え切れない回数食べているため、アンドリューが最も得している。
「お米とサフランに使えそうな調味料があるわね。それにシーフードも揃っているから、決めたわ!パエリア作ってあげる!」
玉ねぎ、ニンジン、セロリを細かく包丁で切り、フライパンに火を点けるとオリーブオイルを垂らす。切った野菜とみじん切りしたニンニクを炒めただけで香ばしい匂いが鼻を抜ける。
「さてと、トマト入れたら確か水ね。久しぶりだからちょっと忘れちゃったな」
そうは言っているがとても久しぶりの手際ではない。そしてお米にサフラン、海老と白身魚を入れてオーブンで焼けば出来上がり。
「できたわよ!スカーレット特製のパエリアよ!」
「わぁ〜お!」
ヒカリはよだれを垂らすほどの食欲で我慢できなさそうだ。アンドリューとポールもお腹が空いている。彼女はワインを注ぎ、ヒカリはジントニック。男性陣は生ビールを注ぐ。そして4人が声を合わせ
「いただきます!」
この時間帯なら昼食だが、4人共戦いを終えているためかこの時間でもお酒がススム。今日はもう仕事を忘れて甘えてもいいだろう。そして4人が声を合わせて
「乾杯!」
お酒を一口飲んだ後は熱々のパエリアをフーフーしながら食べる。オーブンで焼き立てだからこそ熱々だ。
「6年ぶりのスカーレットちゃんの料理、美味しー!」
「うんうん、やっぱお前のメシはいつ食っても美味い」
「パエリアなんて久しぶりに作ったけど、我ながら美味しいわね」
着いたらヒカリの組織について詳しい話を聞く予定だったが、4人共食事に夢中で食べながら話すよりお腹いっぱいになってからの方がいいだろう。
「ご馳走様!美味しかったぁ、ありがとっ!スカーレットちゃん」
「いいのよ!また食べたい物あったら教えてね」
「じゃあDAと決着が着いたら、そうね、夏だから冷製パスタとかいいなぁ」
「任せてよ!食べ終わったし、ヒカリちゃんの話聞かせてよ」
「あら忘れてたわ。約束は守らないとね」
そう言うとヒカリはホワイトボードに京都での一件以来に起きた事を文章で書いて説明を始めた。まるで塾講師のような振る舞いだ。まず新田俊明が彼女によって暗殺された一件から刑事という職を捨てたのはそのままの話だ。
「あの後気になってすみれちゃんの名前を調べたけど、やっぱりあのときの名前、同姓同名の戸籍はあったけど警察官の名簿には載ってなかった。だからあの一件以来、どうしても会いたくてアメリカへ飛ぶことを決めたの」
ヒカリはアメリカ国籍を得た後、少し強引で違法な手を使ったが、闇の情報屋からGreen Roseという組織を知ったという。だがGreen Roseという組織に入るのは少し厳しい条件があり、まず身体的な条件で女性の場合は身長が最低165cm以上あることが絶対条件だった。しかしヒカリは152cmの小柄であるため条件を満たせず、少しランクを下げてPANSYに入隊を希望し、晴れて組織の一員になれたという経緯だ。
「それよりさ、ちょっとお願いがあるの」
「お願い?」
ヒカリは微笑ましい表情から少し険しくなり、彼女のもとへ歩み寄る。
「一回さ、私と戦ってくれない?私もPANSYのエージェント、修羅場は潜ってるわ」
ヒカリの言葉を聞いた彼女はテーブルから離れる。そしてグラスに残っていたワインを飲み干す。
「いいわよ。ただし、手加減はなしよ?」
「当たり前よ?スカーレットちゃん相手でも、私は手加減なしよ」
2人は地下にあるリングへと入っていき、さらにリングは鉄格子で一切逃げられない状況になる。たった今睨み合っている2人は愛し合った仲ではなく、戦友として見ている眼。まるで獣同士が睨み合っている光景にアンドリューも驚いている。
「(あのアキモトって女、日本人とは思えないオーラだ。それにあいつに似てる…)」
最初に攻撃を仕掛けたのはヒカリだ。とてつもなく速い踏み込みで手刀を喉元へ突き刺そうとするが…
「甘いわ…」
だがヒカリの手刀は彼女へ届くことはなくハイキックがヒカリの顔面にめり込む!
「うぅ!(何この重い蹴り…死ねる…!)」
彼女のキックをまともに受けたらまず生きていられないが、ヒカリはまだ倒れていない。かなり手加減をしているのだろう。ヒカリが仰向けに倒れるかと思いきや、機転を利かせて次に仕掛けた攻撃はサマーソルトだ!
「ハッ!(やるわね…けど空振りして着地するとその分隙が大きくなる)」
空を切ったサマーソルトは着地と同時、ヒカリはバランスを崩す。そして飛んで来るのはラグビーのようなタックルだ。
「ウゥぅ…!(一発くらいせめて殴る!)」
彼女の重い攻撃を受け続けてもなおヒカリは攻撃のチャンスを覗い続ける。
「(いくらスカーレットちゃんでも下までは見れないはず…ここは発勁を喰らわせる!)」
ヒカリは彼女の腹部に人差し指を当てる。そして殺人級の威力を誇るジークンドーのワンインチパンチが彼女を襲う!
「ハァァァー!」
「(これはワンインチパンチ!)」
ワンインチパンチを喰らった彼女はリングの鉄格子まで吹き飛ぶ!だが彼女が腹筋に力を入れていたことと、ヒカリが攻撃を当てまいと焦った気持ちが威力を存分に出せなかったことで威力は半減された。
「キャプテン…スカーレットさんが吹き飛ぶなんて、見たことあります…?」
「あるわけないだろ…あの女何者なんだ?」
やっと彼女に攻撃を当てれた安心感からヒカリは脱力感のあまり両膝をつく。彼女もワンインチパンチを喰らったためか足元が少しふらついているが、そのままヒカリのもとへ歩み寄る。
「ワンインチパンチ、あれはジークンドーの技だったわね?ヒカリちゃん、見事な威力だったわよ」
「けどやっぱり、スカーレットちゃんのキックの方が私より強いわよ。手加減したでしょ?」
確かに彼女は手加減した。そもそも全力のキックを受けた者で生き残れた者はいない。
「私の負けよ。約束通り、私たちが掴んだDAの情報を共有しよっ」
2人は戦いを終えると再びリビングへ戻る。10分程度の戦いだったがヒカリは完全にクタクタで、彼女は腹筋に力を入れていたとはいえ胃がズキズキと痛んでいる。さらにちょうど生理の時期も相まってけっこう痛そうだ。2人の戦いを見ていたアンドリューとポールは終始口をポカンと開けた状態で唖然とするばかりだった。
「改めて説明するけど、私たちPANSYは民間の反テロ組織でスカーレットちゃんたちと同じくDAを追っている。あいにくリーダーは不在で、今はほとんど私が組織全体を見ているわ」
PANSYはGreen Roseより小規模で、組織全体の人数は15人とかなり少人数でやっている。メンバーは全員元警察官や軍を卒業した者で構成されており、Green Roseと大きく異なるのは裏社会出身の者がいない点だ。本来なら敵対してもおかしくないが、協力関係を結ぶかどうかは彼女たちに決定権があるため、カサンドラとアンドリューも止める権利はない。6年ぶりに再会したスカーレット・グリフィンとヒカリ・アキモトによって協力関係が結ばれ、DA打倒計画が双方の組織で進められる。
「私たちが調査してわかったのは、DAのボスの正体よ」
「何だって!?あんた知ってるのか?今すぐ教えてくれ」
彼女が口を出す前に喋り出したのはアンドリューだった。しかしヒカリは冷静に資料を取り出す。
「調べてみたらけっこう胸を抉られる内容よ…」
胸を抉られる内容?一体どんなのだろうか。
「DAのボスはこの男よ。名前はフレデリック・ギレスピー。42歳。元はかなり大きな大学病院でガン治療の新薬の開発に勤しんでたらしいの。結婚歴もあるわ」
「フレデリック・ギレスピー…話してちょうだい」
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