CHAPTER3 DAの5大幹部

 会議室を去ったフレデリックは再び自室兼実験室へと戻った。すると既に5人の先客が奴を待っていた。おおよそ20代から40代までの年齢層で男性3人、女性2人の計5人。全員喜びの表情と悲しみの表情と千差万別だ。その中の一人がフレデリックに話し掛けた。

「ボスぅ、何か面白い仕事ないっすかぁ?俺たち退屈してるんすわぁ」

 相当軽い口調だ。構成員らが恐れるボスのフレデリックにすらなびいていないほどの自信だ。

「アンソニー、早速仕事だ。今回の敵はGreen Roseのエージェント、スカーレット・グリフィン。だが殺すにはまだ早い」

 事実まだスカーレットはDAに直接攻め込んでいない。相手側に策があれば当然自分にも策がある。スカーレットという一人の人間を倒し、さらにGreen Roseをまとめて壊滅させるにはキメラ人間だけじゃとても敵わない。スカーレット一人でDAに挑むのは多勢に無勢だが、どうせなら惨めに死んでもらった方がいい。

「君たちにはGreen Roseを壊滅させるだけの力はある。でもどうせなら、敵なら最後まで惨めに死んでもらいたいもんだ」

 フレデリックが差し出したのはペンシルベニア州にある最も大きな銀行、フランク銀行の地図と見取り図だった。単純に銀行強盗を計画しているのだろうか?

「私が考えているのはただの銀行強盗ではない。この銀行を占拠すれば利益は全て私たちの下へ入る。そして銀行が持つ裏金まで手に入れれば、奴らを跡形もなく消す以上の武器までも手に入る」

「へぇ、面白いじゃん?けど、僕がボスよりも先にスカーレットとかいう女をミンチにしちゃうかもよ?」

「フンっ…大した自信だが奴は正真正銘の天才だ。うまく手懐けられるといいな?」

 フレデリックはおそらくスカーレットの脅威をわかっている。だが奴にとって幹部が5人いるということは正直目障りに思っていた。奴にとって5大幹部はより強力なキメラ人間に自分がなるための時間稼ぎにしか過ぎなかった。もはや使い古す駒でしか見ていないが、ボスより下とはいえ5大幹部は全員高度な訓練を受け、戦場で生き残った猛者だ。フレデリックがさらに実験を進めようとするなら、その分金もいる。5大幹部は奴が何を考えているかも知らず、差し出された銀行の地図の位置へと向かって進むのだった。

「残念だが、君ら5大幹部は私の踏み台になるための存在でしかないんだよ。私は必ず究極のバットになるのだ」

 7月12日はあいにくの大雨だ。まだ給料日を迎えていない人が多いが、銀行を利用する人は非常に多く、特に州で最も大きい銀行なら尚更人が多い。銀行強盗なら本来警察らが警備に回る時間を避けて襲撃するのが一般的だが、5大幹部はあえて警備が強い時間帯を選んだ。14時過ぎ、真っ白いエクスプローラーが銀行の駐車場に停まり、奴らは顔を隠すこともなくショットガンで自動ドアをブチ壊す!異常を感じ取った職員は警報を鳴らすが奴らは全然焦っている様子もない。

「さっさと終わらせるかアンソニー?」

「いやいや、せっかくなら邪魔な警備も殺して箔付けちゃおうよ?」

 アンソニーと名前を呼んだのはホフマンという男だ。

「ひざまずけ!大人しく降伏するんだ!」

 警察の静止をも無視して奴らは持っていた重火器をド派手にぶっ放し、あまりの早撃ちで10人はいた警察たちはあっという間にハチの巣と化す。警察の中には特殊警棒を持って立ち向かうが、その攻撃が届くこともなくザラという女幹部によって両腕を糸も簡単にへし折られ、そのまま首までもへし折られてしまう。急所を撃ち抜かれずまだ息があった警察は、ヴィッキーという女幹部によって生きたまま素手で舌を引っこ抜かれるというエゲツナイ殺し方を見せた。どうやらキメラになどならなくても素の戦闘力が高すぎるため、並の警察じゃ抑止力になれるわけもなく、警察は全滅。幸い銀行に取り残されていた一般客と職員は流れ弾に撃たれた人以外の怪我人はゼロだった。

「あいつら…警察はみんな殺したのに、どうして私たちには目を向けなかったんだろう?」

 金庫の中の金を含め、奴らは全てを奪い取ると銀行を去っていくが、何故か一般人の大半は危害を加えられていない。おそらく不可抗力以外なら一般人は危害を加える対象ではないのだろうか?

 現段階でわかっていることは5大幹部の名前だ。まず男性3人から言うとアンソニー、ホフマン、ニコラス。女性2人はザラ、ヴィッキーだ。

 奪い取った金は10年以上は食っていけるだけの金額に相当するが、この金は全てDAの組織運営資金でもあればフレデリックによるキメラ実験のために使われる。キメラ実験を行う方法として密猟者たちから闇ルートで動物の遺伝子を金で手に入れ、さらに一部の大学の研究室からは裏金で生物の細胞を手に入れるのだ。フレデリック自身が最高のバットになるための実験を行うには生物の遺伝子、それを手に入れるために多額の金がなきゃやはり話にならない。

「最高だ…これからも私のために動いてくれればいいんだ。おかげで余興たる個体は完成した」

 フレデリックはたった今完成した5体の異なるキメラ細胞の薬品を並べた。5体あれば5大幹部全員分あり、一人ひとり違ったキメラを生み出すことができる。フレデリックが完成させたキメラ細胞は以下の5体だ。

①蜂

 適合すると宿主は微弱な波動を放って蜂を使役させることができる。身体能力の変化は特にない。

②タコ

 適合するとタコのように手脚をグニャグニャに曲げれるようになり、絞め付けるパワーは1tを超える。

③トカゲ

 適合すると爪が鋭利になり、ただのトカゲの遺伝子ではなく猛毒のコモドオオトカゲであるため、適合者の唾液には猛毒が混じるようになる。

④チンパンジー

 適合すると身体能力とパワーが5倍にまで跳ね上がる。パンチ力が仮に100kgなら単純計算で500kgにまで向上させられるが、全く泳げなくなるのが最大の欠点。

⑤クラゲ

 適合すると背中から猛毒を持つ触手を出すことができ、毒の強さは人間の致死量に相当する。身体能力の変化は特にない。

 

 これらの個体を完成させたフレデリックは満足気な表情を浮かべ、自分自身が究極の存在になれるときも近いと感じ笑い出す。

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