11月14日

 ほとんど泣き出してしまいそうだった。



 意識しないと呼吸ができなくて、喉になにかが詰まっているような感覚がした。


 気を張っていないと今にも倒れてしまいそうになるほどなにかに追い詰められていた。


 原因はわかっている、化け物のせいだ。


 そう、言いたいけれど、原因は化け物じゃない。


 化け物に立ち向かっていけない僕の弱さが原因だ。


 化け物の毒をなんの対抗魔法もなしに喰らってしまう、弱い僕のせい。


 そもそも僕は魔法なんてほとんど使えない村人なんだから、化け物に対抗しようとすることさえ間違いであるんだけど、でも立ち向かっていかなければ殺されるだけだ。


 だから今日は化け物に立ち向かうために化け物の生態について考えることにした。




 化け物の一番怖いところは、暖かい衣をまといながら毒を吐くところだ。


 僕は寒がりだから暖かそうだと思って無防備に近寄ったところで毒を喰らう。


 化け物はまるで深海に漂うチョウチンアンコウみたいに、ゆらゆらと明るい光をちらつかせて、獲物をじっくり待っている。


 無防備に近づく僕が悪いんだけど、そこに化け物がいるなんて知らなかったから、僕はなんの準備もなしに攻撃を受けることになる。


 その毒に即効性はほとんどなくて、後からじんわり僕の心をむしばんでいく。


 僕が気が付かないような速度で、僕のからだをじんわりと貪っていく。


 こういう攻撃の難点は回復魔法が効かないところだ。


 ダメージが少しずつ蓄積されていくから一時的な回復をしたとしてもまた少しずつ治りかけた傷が広がっていく。


 日々の傷は致命傷には至らないけれど、放っておくときっとそれは死に至るだろう。



 時々即効性のある毒を喰らうことがあるけれど、そういうタイプの攻撃はそれほどまでにダメージは喰らわない。


 攻撃力が無い分、回復も早い。


 しかしほとんどの化け物が遅効性の毒ばかり吐いているから、僕の回復魔法も間に合わなくて、いつの間にか僕はボロボロになってしまっている。


 もともと魔法が得意ではない僕は回復魔法を使える体力も限られているから、すぐにバテて眠ってしまう。



 どうにかこの遅効性の毒に対応する術を身につけなければ、僕はきっと傷が広がって死んでしまうだろう。


 でも、もしかしたらその術を身に着ける頃には僕は化け物になってしまうのかもしれない。


 化け物は増え続ける一方だから、そんな化け物に囲まれた僕が正気を保っていられるとは言い難い。


 

 それならば、いっそ弱い僕のまま、ただ回復魔法を駆使して死ぬまでこの世界を生き延びるしかないのかもしれない。

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