11月7日

 この世界に生きていてまだ取りつかれていない人間は少数で、化け物はそんな人を見るとそいつを喰らうように毒を吐いた。


 なんで化け物は人間を攻撃するんだろうって疑問でならなかったけれど、近くで化け物を見て気が付いた。


 きっとこれは化け物が生きていくために必要な捕食行為なんだと。


 化け物は人間の心を喰らう。


 それは化け物が生きていくために必要なことなのかもしれないけれど、人間の僕にはあまりに残酷で、こみ上げる吐き気を抑えるのに必死だった。




 化け物に囲まれた綺麗な人間は、喰われて同じ化け物になるか、毒が回って死んでしまうかの二択しか選べない。


 僕がいた村は閉鎖的な環境で、化け物の情報はほとんど回ってはこなかったけれど、化け物に喰われて死んでいった村人の話は嫌なくらい耳に入った。


 それがどんな化け物で、どんな風に喰われたかなんて話は一切聞かないのに、ただ「化け物に喰われた」という情報だけは何度も村に入ってきていた。


 だから僕は幼いころから化け物は恐ろしい存在なんだって知ってた。

 



 幸い僕はこの社会でまだ取りつかれていない少数派の人間だ。


 この世界で僕が正気を保って居られているのは、自分の身をボロボロにしてまで守ってくれる騎士がいるからだ。


 この広い世界で騎士という存在に巡り合えたのは本当に奇跡としか表せないだろうと思う。


 僕は弱いから、化け物に立ち向かうことはできないけれど、騎士が守ってくれているから、なんとか人間のまま呼吸を続けることができている。


 本当はこんなところからさっさと逃げ出して、静かな湖畔でひっそりと暮らしたいけれど、化け物の方が多いこの世界では、化け物と共存しなければ生きていけない。


 湖畔でひっそりなんて夢のまた夢だ。




 僕は運が良くて、この世界で最も希少だと言われる騎士と出会えたけど、騎士がいなかったらきっと僕の命はとっくに消えていたのだと思う。


 僕はそんな騎士に恩返しがしたい。


 ちっぽけで、化け物から逃げてばかりの弱い僕が何を返せるのかわからないけど、この恐ろしい世界で人間の僕ができることを探していこうと思う。




 これは僕と社会という世界に蔓延る化け物との戦いの話だ。


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