第43話 帰宅

会社の定時を迎え俺は一つ伸びをする。

出張から帰ってきてそのまま出社し仕事をしていたのだ。

正直一刻も早く美優に会いたくて仕事中少しソワソワしてしまっていた自覚がある。

何かミスとかはしてないけどもしかしたら変に思われたかもしれない。

あがりの挨拶もそこそこに会社を飛び出し電車に飛び乗った。


数日ぶりに通る帰り道はそんなに時間は立っていないはずなのに少し懐かしくて心が踊った。

お土産もしっかりとカバンに入っているし美優と会う準備は万全。

段々と家が見えてきて明かりが点いているのが見えて足取りはさらに軽くなった。

そして鍵を開け取っ手を掴みドアを開ける。


「ただいま」


いつも通り声をかけカバンを玄関に置く。

すると奥から美優がパタパタと走ってきた。


「ただい──うわっと!?」


美優はそのまま俺の胸に飛び込んできた。

なんとか体勢が崩れないように美優を受け止める。


「おかえり……」


美優は俺の胸に顔を埋めたまま言ってくる。

その手は俺の背中でぎゅっと固く結ばれていて絶対に離さないと言わんばかりの強い意思を感じた。

俺は少し苦笑して美優の頭に手を置きポンポンとする。


「ただいま。待たせちゃってごめんね」


「ううん、無事に戻ってきてくれたしお仕事なんだからいいの。でも……やっぱり拓哉がいないと寂しかった……」


改めて聞かされると若干の気恥ずかしさと共に少しの嬉しさがやってくる。

自分を必要としてくれている、そんなお嫁さんが可愛くて仕方なかった。


「俺も美優がいなくて寂しかったよ。今日の会社でなんて浮かれすぎて同僚から少し不審に思われてしまったくらいだ」


「ふふ……なにそれ」


直接口に出されてはいないが多分変だとは思われていただろう。

己の恥を晒したとしても美優が笑ってくれるならこれくらいお安い御用だ。


「夕飯できてるよ。温かいうちに一緒に食べよ?」


「わかった。お腹すいちゃったし数日ぶりの美優のご飯だから楽しみだよ」


「ふふ、今日はちゃんと拓哉の好物づくしだよ」


「おっ!それは楽しみ倍増かな?」


俺達は笑いながらキッチンに向かい2人で協力して皿をダイニングテーブルへと並べていく。

確かに俺の好物ばかりであり見てるだけでお腹が空いてきた。


「ふふっ、それじゃあ食べよっか?」


「ああ」


「「いただきます」」


パクリとまずは肉じゃがを一口。

じゃがいもを始めとした具材にしっかりと味が染み込んでいてご飯が進む。

向こうの食事も美味しかったけどやっぱり俺にとっては美優の料理が一番だ。

ほっとするし心がぽかぽかとしてくるのだ。


「あ、そうだ。お土産たくさん買ってきたよ」


「ありがとう。拓哉がどんなもの選んできたのかちょっと気になるかも」


「任せてくれ。今回は考えに考え抜いて絶対に美優に喜んでもらえるであろうものを買ってきた」


「自分から随分とハードル上げるね。ふふっ、わかった。楽しみにしてるね」


美優は優しく俺に微笑んだ。

俺は数日ぶりの美優の手料理を堪能ししっかりとおかわりまでしてフィニッシュした。

しばらくは出張であったことや美優が家で何をしていたかなど雑談を楽しむ。

そして腹にも少し余裕が出てきた頃、美優がお茶を淹れてくれるそうなので俺は自分のカバンからお土産を取り出して持ってくる。


「はい、お茶淹れてきたよ。って随分買ってきたね……」


「あ、あはは……美優が喜んでくれるかなって思ったら買ってた……」


「も、もう……!そういうことをさらっと言う……」


美優の言葉は不満げだが口は少しニヤけていてまんざらでもない様子だった。

でも喜んでもらうのはここからだ。

そのために高梨にも手伝ってもらったのだから。


「まずはこれかな。しっかりと下調べもして美優の好きそうなういろうを買ってきたよ」


俺は中身が結構はいった大きめのういろうの箱を軽く押し出す。

美優はその箱を持ち上げて軽く見たあとうんうんと頷いていた。


「やっぱり和菓子はいいよねぇ……一度本場のういろうを食べたかったからすごく嬉しいな」


どうやら喜んでくれたらしい。

他にも小倉あんや和菓子以外にも名物の五平餅も買ってきていたのでどんどん美優に見せていく。

そして俺はここで痛恨のミスをしていたことに気づいた。


「あっ……!」


「ん?どうしたの?」


「お茶買ってきたのに美優に渡し忘れてた……せっかくだから飲んでほしかったけど……」


そう言って俺は肩を落としながら美優に茶葉を見せる。

美優がお茶を淹れに行こうとするタイミングで気づくべきだったのに完全に失敗した。


「わっ!すごく美味しそうな茶葉だね……明日から淹れようね。どっちみちこのお菓子たちも今日中には食べきれないし一緒に出すね」


「ありがとう……」


それから俺達はのんびりとお菓子をつまみながら雑談に戻っていく。

それは久しぶりと言うにはあまりに早いが2人にとっては何よりも大切で心落ち着く穏やかな時間であった。

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