第40話 出張の始まり

「それじゃあ行ってくるよ」


「うん、気をつけてね」


俺達はギューッと抱きしめ合う。

そして唇を重ね合った。

何日か離れ離れになるのは結婚後初めてのことでどれくらい寂しくなるか見当もつかない。

できるだけ美優の存在をたくさん感じたかった。

名残惜しいが時間も時間なので美優の体をそっと離す。

そして駅に向かって歩き出した──


◇◆◇


俺は最寄り駅から電車に乗り新幹線に乗る駅へと向かう。

高梨とはそこで合流する予定だ。

到着して腕時計を確認すると時間には十分余裕があり集合時間の15分ほど前だった。


(目星の駅弁でも探しとくか)


俺は遠目に見える駅弁屋を眺め美味しそうな弁当がないかと看板を見比べる。

ぼーっとそんなことをしていると軽く肩を叩かれた。


「おはようございます、村松さん。お待たせしちゃってすみません」


「いやいいさ。それじゃあ駅弁を買って新幹線に乗ろうか」


「はいっ!駅弁楽しみです……!」


高梨は目を輝かせる。

どうやらよっぽど楽しみにしていたらしい。

俺たちは各々駅弁を買い新幹線に乗り込んだ。

チケットの番号と見比べながら自分たちの席を探し見つけた。


「村松さん、窓側どうぞ」


「ちゃんと覚えていたみたいだな。まあ俺のときはそんなに気にしなくてもいいぞ」


「いえいえ。村松さんは私の上司ですから」


昔は上座についてよく教えたもんだ。

俺はやる側は気をつけるようにしているがされる側は正直どっちでもいいと思っている。

だがせっかく高梨が譲ってくれたんだし窓側に座ることにした。


「ここから何分くらいだっけ?」


「2時間ほどですよ」


高梨が教えてくれる。

2時間なら時間に余裕はあるな。

俺たちは駅弁を開きのんびりと食べる。


「そういえば村松さんって結婚したんですよね?」


10分ほど駅弁をつついていると高梨が焼き鮭を美味しそうに食べながら聞いてくる。

多分敬太あたりが言ったんだろう。

意外と仲いいからな、この二人。


「ああ、最近結婚したよ」


「いいですねぇ〜……25で結婚なんて羨ましいかもです」


「あはは……自分でも驚いてるよ」


だって今まで恋人がいたことすらなかったし。

それがいきなり結婚できるなんて数ヶ月前の自分に言っても信じられなかっただろう。


「どんな人なんですか?写真見せてくださいよ〜」


人の写真を勝手に人に見せるのはどうなんだろうか、と思う。

でも思えば美優は社員旅行に参加するわけだし顔は知っていても悪くないはず。

待ち受けに許可された一枚だけならば許してくれるはずだ。

だって見られる可能性も加味した結果許可されたわけだし。


俺はスマホを開き待ち受け画面を高梨に見せた。

設定してある写真は美優と顔を寄せ合って写ったツーショットである。

俺のお気に入りの一枚だ。


「……え?レンタル彼女かなにかですか?この人」


「いきなりめちゃくちゃ失礼なことを言うな!?」


高梨は信じられないといった顔で俺を見てくる。

俺も第三者だったら同じことを思うかもしれないだけに強くは責められないのがなんとも悲しいところではあるが。


「でも確かに俺にはもったいないくらいのできた妻だよ」


「本当に美人さんです……こんな人なかなかお目にかかれないレベルですよ……」


高梨も美優とはベクトルが違うが十分美人の分類だと思うけどな。

まあ俺は美優一筋なもので他の人がどれだけ美人でも関係ないんだけどね!


「何か弱みでも握ってるんです?」


「はぁ……そんなわけないだろ。俺達は幼馴染なんだよ」


俺がそう言った瞬間、高梨の目がキラーンと輝く。

その目はまるで獲物を見つけた肉食獣のようだった。


「幼馴染で結婚したんですか!?」


「お、おう……そうだよ」


「そんなのロマンチックすぎます!その話詳しくお聞かせくださいっ!」


どうやら何かが高梨の琴線に触れたらしい。

あまりの勢いに少々気圧される。

そして俺は美優と結婚するに至った経緯をだいぶ適当に端折りながら説明した。

全部説明するのは俺としても恥ずかしいしな。


「素敵です……!私もそんな恋愛してみたい……!」


乙女高梨が爆誕していた。

普通に高梨なら相手に困らんと思うけどな。

まあいい出会いがないと本人が思えばそこまでなのだろうが。


「奥さんとお話してみたいです……!」


「だめだ。一応仕事前だし妻も嫌がるかもしれないだろ?」


「仕事終わってからはどうですか?」


「嫌だ。妻を不安にさせたくないし俺が妻と通話で話す時間が減る。社員旅行は来るって言ってたからそこでしっかり紹介させてくれ」


俺がそこまで言うと高梨も半分冗談で言ってたらしくすぐに退いた。

流石に美優との通話に高梨と一緒に入るのはおかしい。

俺だって美優が知らん男の人と通話に入ってたらなんじゃこいつ?って思うし不安な気持ちになるのは間違いない。


「ラブラブなようでよかったですね」


「うるさい」


「もう……奥さんのこと大好きなんですね。待ち受けもこれでもかとあま~い雰囲気出しちゃって」


高梨がニヤニヤして言ってくる。

だが否定もできないし認めるのも気恥ずかしいのでその言葉は無視して窓の外に視線をやった。


はぁ……美優に会いたい……


────────────────────────

砂乃は出張にいったことがありません。

なのでなにかおかしな点があったら(優しく)教えてください笑

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