第38話 いつも一緒

「早かったなぁ……」


「そうだね。4泊5日なんてあっという間だった……」


俺と美優は帰りの電車でしみじみとそうつぶやく。

結構長かったはずなのに時間はあっという間に過ぎていった。

楽しい時間は終わるのが本当に早い。


「美優は何が一番楽しかった?」


「私は……拓哉と一緒に足湯に入れたのが一番良かったかも」


「俺もすっごく気持ちよかった。家で簡易的な足湯やってみる?」


「それいいね。仕事終わりに拓哉と一緒にのんびりできるもん」


ソファーに並んで座って足湯しながらテレビを見たりおしゃべりを楽しむ……

考えただけで最高だな!

旅行中も思ってたけどやっぱり欲しいな……


「今度調べてみるよ。もし必要なものがあったら仕事終わりにでも買ってくるから」


「うん、ありがとう」


そこで会話が途切れ俺達の間に沈黙が流れる。

それでも気まずくないし不思議と居心地も良かった。

美優が俺の肩に頭を乗せてくる。

眠いのか少し目がトロンとなっていた。


「本当に……楽しかったなぁ……終わっちゃうのが寂しい……」


俺も今までの旅行で一番楽しかったし思い出に残ったと断言できるくらい楽しんだ。

美優の気持ちはすごくわかる。

俺は美優のサラサラとした艶のある黒髪を撫で始める。


「むぅ……子供扱い?」


「そんなつもりはないよ。でも昔をつい思い出しちゃってさ」


思えば美優は昔からイベントを楽しむタイプで終わるときはいつも少しだけ名残惜しそうな目をしていた。

家族ぐるみで休日に遊びに行ったときも美樹さんがよくたしなめていたのを覚えている。

美優も同じことを思ったのか少し顔を赤くして俯いた。


「思い出した?」


「うぅ……思い出したけど……わざわざ言わなくてもいいじゃん……いじわる」


そう言って美優はぷいっとそっぽを向く。

その姿も昔と全く変わってなくて思わず笑みがこぼれてしまう。

俺は美優の頭を撫でる手を止めない。


「それだけ俺との旅行を楽しみにしてくれてたってことでしょ?俺は嬉しいな」


名残惜しいということはそれだけ楽しんでくれたということ。

新婚旅行なんだから美優が楽しんでくれたなら万々歳だ。


「そんなの当たり前だよ……拓哉と一緒に旅行に行けて楽しくないわけない。私が大好きな優しい旦那様だもん……本当に素敵な新婚旅行だったよ。絶対に一生忘れない」


そう言って美優ははにかむ。

その表情にドキッとさせられたし嬉しい言葉に心がぽかぽかと温かくなってくる。

いつも美優は俺が欲しい言葉をくれる。

身体的にも精神的にも俺はいつも美優に支えられている。

そのことを痛感した。


「また……一緒に旅行に行こう」


「そうだね……」


「俺達はいつも一緒だよ。これからもたくさんの思い出を作っていける。だから──」


これからもよろしくね、と。

俺の心からの本音であり一番大切な願いだった。

旅行に行くことよりも、仕事で成功することよりも、何よりも美優と一緒にいられることが大切だと思えた。

美優が遊びにいきたいと言ったらどこにでも連れて行くし家でのんびりしたいと言ったらまったり過ごす。

それが俺の一番の願い。


「うん……いつも一緒……」


美優は俺の手を握って指を絡めてくる。

手の温かみが伝わってきて安心する。


「私は拓哉がいてくれればすごく幸せ。どんなことでもいいの。一緒にいたいな……」


そう言って美優は俺の頬にキスをしてくる。

この旅行で美優は本当に大胆になった。

今までももちろん仲が良かったと断言できるけどこの旅行で確実に美優と夫婦としての距離感が縮まったと思う。

俺としてはすごく嬉しい。


「眠い?」


「うん……」


「駅に着いたら起こすから寝てもいいよ。俺は美優の隣にずっといるから」


「ありがとう……おやすみ……」


そう言って美優の目は完全に閉じ数分後には小さく可愛らしい寝息が聞こえてきた。

顔を覗き込むと安心しきった表情で俺にもたれながら気持ちよさそうに眠っている。


「俺が……絶対に幸せにしないとな」


もう結婚してから何度目かもわからない決意を口にする。

その人のためならどんなことだってしてあげたいし相手もそれを受け入れてくれる。

そんな人に出会えて結ばれたという些細だけど得るのはとても難しい幸福を手に入れることができて俺は本当に幸せだ。

だからこそ俺はそれにあぐらをかいてたらいけない。

美優をこの世界で一番幸せにしたい、そんな気持ちでいっぱいだった。


「家帰ったらネットで頼んでおいた高級どら焼き届いてるかなぁ……」


愛する妻の笑顔を思い浮かべて思わず笑みがこぼれる。

電車の適度な揺れ、線路を走る音、そして美優のぬくもりが旅が終わるさみしさを埋めてくれたようば気がした。


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一ヶ月更新できてなくてごめんなさい!

これから息抜きに(砂乃が甘々を求めたとき)に書いていきます!

流石にもう一ヶ月放置とかはしない!……ように善処します!

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