第35話 眩しい夢と明るい未来

「くそ……まさか美優に動画を取られていたなんて……」


「拓哉が寝起きに毎回寝ぼけるのは知ってるもん」


美優はそう言って可愛らしいドヤ顔を見せる。

そりゃあ毎朝美優に起こしてもらってるんだから俺の寝起きに関しては俺よりも美優のほうが理解している。

最初から勝てぬ戦いだったわけだ。


「拓哉かわいい……」


美優はこれでもかと動画を再生する。

美優が動画を持っている分には何も言わないが人や俺に見せるのは勘弁してほしい。

俺は戒めの意味もこめて動画を流し始めた。


『たくやぁ……だーいすき……』


「俺よりこっちの方が可愛いだろ?」


「〜〜っ!?なんで持ってるの!?今朝消したのに!」


「残念だったね。バックアップを取っておいた」


美優が再び動画を消すべくスマホを狙ってくる。

まあ取られないようにけまくってるけどね。

5分ほどの攻防の末、美優はようやく諦めた。


「わかった……この動画も消すからそっち消して……」


美優が残念そうな顔をしてゴミ箱のボタンを押そうとする。

しかし俺の目的はそれではなかった。


「それ消さなくていいよ。俺もこの動画消さないから」


「えっ!?消してよ恥ずかしいから……」


「妻の可愛い姿を見たいのは夫として当たり前のことだろ?美優が本当にどうしても消してほしいなら消すけど」


「……そのままでいいです」


勝ち。

こうして合意の上で動画をゲットすることができた。

美優に爆弾を握られていることよりも美優の動画がゲットできた嬉しさが大きい。

俺は思わず小さくガッツポーズをして美優はそんな俺をジト目で見ているのだった──


◇◆◇


「ねえ、拓哉。外に出て少し風に当たらない?」


「体は大丈夫なのか?」


「もう……!過保護すぎだよ。大丈夫」


「そっか。じゃあ少し散歩に行こう」


俺と美優はお互いの浴衣を軽く整えて旅館の外に出た。

手を繋いで目的地もなく歩き始める。

かなり過ごしやすい気温になっていて頬に当たる風が気持ちいい。


「拓哉、この旅行が私が今まで行ったどの旅行よりも幸せ」


楽しい、というよりも幸せという言葉の方が確かにしっくりくる気がする。

新婚旅行で近場の温泉旅行というのも俺たちらしい。

まったりできるし高校卒業から今までの空白の時間を埋めるかのようにお互いと触れ合える時間が作れるのだから。


「ああ。俺もだよ」


「考えたことある?もし私達が高校生から付き合っていたら……って」


「あるよ。それこそ何回でも」


俺たちは婚約してから昔から両想いであったことを知った。

だから学生時代に恋人としての思い出はない。

高校のとき付き合っていたら、と考えたことはもちろんあった。


「でも過去に戻って付き合いたい、とはならないかな」


「どうして?」


「今が幸せ過ぎるから。これ以上望んだらバチが当たりそうだ」


俺の言葉に美優は笑う。

怒るかな?とも思ったけど美優は特に怒っていないみたいだ。


「私も同じこと思ってた。もし高校時代に付き合ってたら今こうして夫婦じゃなかったかもしれないしね」


確かに高校生で付き合って結婚まで行くケースは少ないだろうな。

俺たちも結婚したてだからこれからトラブルが起こらないとも限らないが高校生よりは冷静でいられるはずだ。


「昔できなかったこと、これからたくさんやっていこうね」


「ああ。そうだな」


あの頃しかできないこともあるかもしれない。

でも今だからできること、今からでもできることはたくさんあるはずだ。

これから学生時代に負けないくらい輝いた思い出を作っていきたい。


「ちなみに制服はあり?」


「制服?」


「美優が制服を着て写真撮影」


俺がそう言うと美優は呆れた顔をする。

学生といえば制服。

学校にはもう行けなくても制服を着るくらいは許されるはずだ。


「25歳で制服を着るなんて痛くない?」


「大丈夫!美優は若々しいから痛くない!きっと可愛いよ」


もちろん美優の制服姿はばっちり覚えている。

でも改めて見たいと思うのは自然の考えなのではないだろうか?

ぜひとも写真を撮って俺の秘蔵コレクションに追加したい……!


「ええ〜……やだよ……」


「そこをなんとか!お願い!」


「……家で拓哉も制服を着るなら、考えなくもない」


「着る!制服でもなんでも着るから!」


「じゃあ考えとく……」


よし!

こう言われたならもう決定したも同然だ!

今度ネットでコスプレ調べて見ようかなぁ……

それで買ったコスプレで写真会や夜も……

夢が膨らむぞ!


「そんなにニヤニヤしてどうしたの?」


「いや眩しい夢と明るい未来が見えただけ」


「そ、そう?それじゃあそろそろ戻る?」


美優は触れないほうがいいと思ったのかすぐに話題を切り替えた。

聞かれても答えるつもりはなくサプライズで準備する予定だったからちょうどいい。


「そうだね。帰ろう」


「うん」


俺たちは夕日を目に焼き付けてから旅館に戻った。

その間、繋がれた手が離れることはなかった──


──────────────────────────

感謝!


@Kenshi9 様


おすすめレビューありがとうございました!


コスプレコスプレ!

美優さんはどこまで許してくれるんかなぁ……

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る