第34話 してやられた

「美味しかった〜」


「旅館のご飯ってなんでこんなに美味いんだろうな」


俺たちは今、旅館の朝ご飯を堪能し部屋に戻ってきたところだった。

腹が満たされたことで心も満たされている。

俺たちはお茶とかが置いてある机を挟んで向かい合って座りお茶を飲んだ。


「さて、これから何をして過ごそうか」


イチャイチャすると約束したはいいものの何をするのかは大切だ。

できれば美優のしたいことをしたい。

美優が喜ぶのであれば多少痛かろうが痒かろうが我慢しよう。


「うーん……あ!そういえばゲームを持ってきたんだよ!」


そう言って美優はなにやら自分のスーツケースを漁り始めた。

そして取り出したものは小さな箱。

よく見るとそれは人生を模したすごろくだった。


「うわ、懐かしいな……昔よくやったっけ……」


「そうでしょ。この前たまたま見つけて買ったんだ」


広げると昔やったやつよりも小さかった。

持ち運びしやすいように小さいバージョンのものを持ってきていたから当たり前なんだけど。

それでも昔美優とよくやったボードゲームであり懐かしいことには変わりなかった。

美優と一緒に手際よく準備をする。


「それじゃあ先攻はじゃんけんで決めようか」


「うん。それでいいよ」


こうしてゲームがスタートした。

思っていた通り、というかそれ以上にゲームは熱中する。

プレイすればするほど昔の思い出が蘇ってくるのだ。

少し駒を進めあのときはどんなことがあっただの、このマスにはこんなことが書かれてるけど自分だったらどうの、と。

もはやゲームというより会話を楽しんでいると言っても過言ではない。

長い時間をかけてゲームが終わったとき、俺たちは二人とも借金だらけの一文無しだった。


「「ぷっ……あはは!!」


「はは!俺たち運無さすぎだろ……!」


「ふふ……!そうだね。これが現実だったら人生大変だよ」


ゲームだった見事なまでの大惨敗。

でも美優とならこんな生活でも何気に楽しんで生きていけてしまう気がした。

もちろん必死に働いてそんなことにならないようにはするけども。


「こうならないように頑張らないとな」


「そうだね。貯金も順調に貯まってるしその……やっぱり子供も欲しいから」


「……!!あーまあそうだな」


美優とそういうことをしたばっかりだから余計に生々しく感じる。

なんなら避妊はしているものの出来てしまっている可能性も無くはないのだ。

しっかりとした経済計画を練っておくのは悪いことじゃない。

むしろ必要なことだ。


「幸せにできるように頑張るよ」


「まだ子供ができたわけじゃないけどね」


美優は俺の言葉に苦笑した。

これは俺の決意表示だ。

早いに越したことはないさ。


◇◆◇


ゲームを終えた俺たちは旅館の近くにあった蕎麦屋で昼食をとった。

流石に一日旅館でゆっくりするを貫いてコンビニ飯は嫌だしな。

近場のお店で食べることにしたのだ。


「よし、昼も食べたことだし午後は何をしようか」


「次は……拓哉とくっついていたいな……」


美優が少し顔を赤くして言ってくる。

既に一線越えた仲なのに未だに初々しいのが可愛すぎる。

俺は言うまでもなく即OKし美優を抱きしめた。


「ちょ、ちょっと……早いって……」


「ごめんごめん。で、何がしたい?」


美優は俺の腕を特に振りほどこうとはせず腕の中にすっぽり収まった状態で考え込む。

時間はたっぷりあるんだ。

どうせなら美優がやりたいことは全部やりたい。


「じゃあ……添い寝、とか」


「添い寝……?」


俺たちは毎日同じベッドで寝ているし今朝、美優は俺にお宝映像を撮られたばかりだ。

随分チャレンジャーな選択だと言える。


「添い寝でいいのか?」


「だって私達一緒にお昼寝したことないでしょ?せっかくゆっくりできるなら拓哉と一緒にぐうたらしたいなって思って」


それはなんと素晴らしい名案だろうか。

社会人になって圧倒的に少なくなった至高のひととき、昼寝……

それを美優と添い寝しながら……だと!?

最高に決まってるじゃないか!


「よしやろう。すぐにやろう」


「急に乗り気になったね……」



俺たちは持ってきていた分厚くて大きいタオルを敷いて一緒に寝転がる。

フローリングと違い畳は適度に柔らかいし布団を敷いてしまうと熟睡してしまって夜眠れない可能性がある。

ゆえにこれがベストアンサーだった。


「意外と寝心地悪くないな」


「そうだね。ふわぁ……あったかくて眠くなってきちゃった」


「とりあえず一眠りしよう」


俺たちはお互いくっついて意識が離れていった。


そしていくらか経っただろうか。

まだ眠くて瞼が開かないが誰かに頬を触られている。

少しくすぐったい。


「んん……ふわぁ……美優?」


「あ、起きた?おはよう」


美優がなぜか俺の腕の中にいた。

眠る時は隣で寝ていただけだったはずなのに。

いつの間にか抱きしめてしまっていたようだ。


「ふふ。これ見て」


そう言って美優からスマホを差し出された。

見ると俺の寝顔が映っていた。

自分の寝顔なんて見る機会は殆ど無いがいざ見せられても感想に困る。


「……動じてないね。でもまだ秘密兵器があるもん」


美優は再びスマホの操作を始めた。

次に渡されたときには写真ではなく動画の画面だった。

俺が寝ているところから動画がスタートする。


『拓哉、起きてる?』


『……』


『ふふ、可愛い寝顔』


『うーん……美優……』


そう言って画面内の俺はいきなり美優を抱きしめていた。

しかも『大好きだから絶対に離さない』という寝言付きで。


「どう?」


「……ノーコメントで」


完全にしてやられた。

今朝の件も合わせれば引き分け、というか相打ちだった。



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