第14話 『続き』はする?

「あ、危なかった……」


俺は美優が使ったであろういい匂いのシャンプーの匂いがする浴室でそう独りごちる。

美優の煽情的せんじょうてきな姿が頭にこびりついて離れない。

しかもわざとやってるのかと思ったら自分でも無意識だったらしく指摘したら顔を赤くしていた。


「無防備すぎるだろ……」


俺を信頼してくれるのはありがたいが俺だって普通に男だ。

自分を抑えればいいだけだがこんなことが続けば抑えられないかもしれない。

というか我慢できない。

それほどまでに美優は魅力的だし自分だけのものにしてしまいたいくらい大好きなのだ。


だが襲うなんて絶対に駄目だ。

俺の欲で美優を怖がらせるなんてもってのほかである。

俺は心が落ち着くまで風呂に浸かり半分のぼせながら風呂を出た。


「ただいま」


「あ、おかえり。さっきはごめ───」


美優の言葉が途切れどうしたのかと思って振り返るとさっきよりも顔を赤くしていた。

珍しく口をポカンとして固まっている。


「大丈夫?体調でも悪いの?」


「えっ?だ、大丈夫だよ?」


大丈夫と言いつつも様子がおかしい。

俺は美優に近づきおでこに手を当てる。

熱はなさそうだが顔が真っ赤だ。

本当にどうしたのだろうか。


「うーん、熱はなさそうだね」


「ほ、本当に大丈夫だから!だからそんなに近づかないで!?」


そう言われ弱々しく手で押される。

その拒絶に俺は大きなショックを受けた。


「ご、ごめん……」


「あ、いやその……嫌なわけじゃなくて」


俺がショックを受けていると美優が慌てて訂正してくる。

しかしあの拒絶の意思は俺の罪悪感を激しくかきたてる。


「無理しなくて大丈夫だよ。俺がなにか悪いことしたのなら謝らせてほしい」


「………拓哉の色気がすごかったの!」


「……はい?」


どんな罵倒も指摘も受け止める気だった俺は思いもしない言葉に気の抜けた言葉が出てしまう。

色気……?俺が?


「えっと……どういうこと?」


「拓哉の風呂上がりの姿を久しぶりに見たからドキドキしたの!こ、これでいいでしょ」


美優は半ばヤケクソの様子で自白してくる。

俺に色気なんて考えたこともなかった。

鏡で自分の姿を見たとしてもさっぱり分からないだろうし美優にとってはそういうものなんだろうと強引に納得することにした。


「な、なるほど……?」


「もう……!」


俺達の間に少し気まずい空気が流れた。


◇◆◇


風呂上がりの色気事件のあと俺達は美優が淹れてくれたお茶を飲み1時間ほどまったり過ごしていた。

そんな中、ふと美優に聞きたいことを思い出した。


「ねぇ美優。昼に言ってた『続き』はする?」


「え!?」


怒られるかもと思ったけどどうしても気になって聞いてしまった。

続きって一体なんだったのか……


「そ、そんなに『続き』したい?」


「したい」


美優の返しに即答する。

まさか最後までは行かないだろうが正直どこまで許してくれるのか楽しみにしていた。


「わ、分かった……じゃあ、はい」


美優は手を広げて俺を見上げる。

これは……ハグかな?

とりあえず近づいてみると正解だったようで美優が抱きしめてくれた。

甘いシャンプーの香りと共に美優の体温が伝わってくる。


「ど、どうかな?」


「美優があったかい……」


「ふふ、なにそれ」


美優が可笑しそうに笑う。

俺は美優のおでこにキスを落としそのまま抱きしめる。

美優はくすぐったそうにしていたものの手は離さずしばらく俺達は抱き合っていた。


「さて、じゃあ今日はこれでおしまい」


「え……?あ、うん……」


美優が離れていってしまう。

その瞬間美優の言っていた『続き』の意味を理解した。

ハグをもう一回してあげるって意味だったのか!

俺だけ下心丸出しで申し訳なくなった。


「そんな顔しないの。そんなにもっとしたかった?」


「…………それはまぁ」


仮にハグだけだったとしても離れるのは嫌なものだ。

今日はこの先に進まなくてもいいからもう少しくっついていたかった。


「わ、私は拓哉がしたいならしてもいいけど……その……最後まで……」


「最後まで!?」


「や、やっぱりこの話は無し!」


俺が驚いていると美優がすぐに真っ赤な顔で訂正してきた。

流石に自分でも早すぎると思ったらしい。

顔を染めながら手を振り必死に否定する姿は正直可愛らしい。


「分かってるよ。そういうのは美優の心の準備が出来たらでいいから。俺はいつまでだって待つよ」


「……ありがと」


◇◆◇


俺は明日出勤ということでもう寝ることになった。

なんだかんだいい時間になっていたし問題なく眠れそうだ。

……こんな状況になっていなければだが。


今俺の横には美優が寝ていた。

まだベッドは届いていないため各自の部屋で寝るものだと思っていたのだが美優は「今のうちから慣れたほうがいい」とのことで隣に客人用の布団を敷いたのだ。

布団でもこれなのに同じベッドなんて大丈夫かな……


「ねぇ拓哉。まだ起きてる……?」


俺が中々寝付けないでいると美優が話しかけてきた。


「うん。起きてるよ」


無視する必要はないので返事をする。

美優も眠れないんだろうか。


「今日はすっごく楽しかったの。それに拓哉とキスもできて嬉しかった」


「俺も嬉しかったよ。これからずっと一緒にいられるんだから何回でも遊びにいこう」


「……うん!大好きだよ、拓哉。おやすみ……」


「ああ。おやすみ……」


布団の下でそっと手を繋ぐ。

すると不思議と緊張が薄れていき意識が薄れていった。

繋がれたその手を離すことなく……



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