第15話 喜んでほしくて作ったの

朝、何かに触られている感覚と共に目が覚める。

少しずつ意識がしっかりしてきて目を開けると目の前に美優の顔があった。

どうやら美優の指で頬をつつかれていたようだ。


「おはよう、拓哉」


「……おはよう」


「朝ご飯もうすぐできるよ。顔洗って下に降りてきてね」


「分かった……」


まだ少し重たいまぶたをこすり洗面台で顔を洗う。

冷たい水が完全に俺の目を覚ましてくれた。

そして顔を洗ったあとリビングへ向かう。


「あ、ちゃんと起きてきたね。朝ご飯一緒に食べよ?」


「ああ。朝ご飯作ってくれてありがとな」


「これくらい全然大丈夫だよ。ほら、冷めないうちに」


美優と向い合せに席につき手を合わせる。


「「いただきます」」


まずは味噌汁を一口。

昨日も頂いたが相変わらず美味しい。

とても優しい味わいで飲むとホッとする。


「拓哉は今日何時に家を出るの?」


「8時だな。家から会社まで近くて本当に助かってる」


「そうなんだ。じゃああと30分くらいかな?」


時計を見ると現在の時刻は7時25分。

焦らなくてもいいがあまりゆっくりはしていられない時間だ。

俺は美優の言葉に首を縦に振り料理を味わう。


「ごちそうさま。おいしかった」


「お粗末様です。お皿は洗っておくから流し台に置いておいて」


「え?自分の分くらい俺が洗うよ?」


「いいから。拓哉だってあんまり時間無いでしょ」


「……分かった」


美優にそう言われてしまうと反論できない。

帰宅したら俺が美優より家事をやることを心に決めつつ任せることにした。

俺はスーツに着替え玄関へ行く。

美優もわざわざ見送りに来てくれた。


「それじゃあ行ってくるよ」


「……拓哉。これ……」


俺が出発しようとすると美優から一つの風呂敷に包まれたものを渡される。

これは……弁当?


「拓哉のために作ったの。喜んでほしかったから内緒で作ったんだ」


俺のために?

もう一度美優が作ってくれた弁当をじっくり眺める。

美優は何も話さない俺に不安そうな目で聞いてきた。


「……いらなかった?ごめん……!勝手に作っちゃって……」


「そういうわけじゃないよ!すごく嬉しくて言葉が出なかったんだ」


弁当を作ってくれるなんて嬉しいに決まっている。

美優が作ってくれたのならなおさらだ。


「よかった……」


美優は俺の言葉に安心したようにため息をついた。

そして改めて俺を見送ってくれる。


「それじゃあいってらっしゃい」


「うん。いってきます」


意気揚々と会社に向かう。

まさに人生最高の朝だった。


◇◆◇


「拓哉ー!どっかに飯食いに行こうぜ〜!」


「あ、敬太。ごめん、今日弁当なんだ」


今日は調子が良く頑張って働いて迎えた昼休み。

早速弁当をいただこうとしたら同期である大菅おおすが敬太けいたに話しかけられた。

いつも一緒に飯を食べているのだが今日は弁当であることを伝え忘れていた。


「弁当?お前料理なんて出来たのか?それとも母親が?」


「残念ながらどれでもないな。同棲してる彼女が作ってくれたんだよ」


「同棲してる彼女!?お前彼女なんていたのか!?」


敬太は本当に驚いた様子で聞いてくる。

俺が全然モテないの知ってやがるからな。


「まぁな。そういうわけで今日は弁当だ」


「嘘だろ……二次元とか妄想とかじゃないのか……?ちょっと弁当を見せてくれ」


「えっ?まぁいいけど……」


ここで断るとまた変な誤解を生みそうなので見せることにした。

見せるだけなら減るもんじゃないし別にいいだろう。

俺はカバンから弁当を取り出し蓋を開ける。

すると……


「……ガチなんだな」


「あー……なんかすまん……」


中には美味しそうな具材が丁寧に入れられていた。

彩りもよくとても美味しそう……なんだが。


「ハートだな」


「………」


卵焼きがハート形に詰められそれが3つくらい入っていた。

俺としては嬉しいのだが見せるべきじゃなかったかもしれない。

わざと俺が惚気けたような構図になってしまっている。


「……お幸せに」


「待ってくれ!わざとじゃないんだ!」


このままだと俺が誰にも彼にも惚気ける人認定されてしまう!

誤解を解くべくなんとか敬太の足止めをする。

そして五分ほどお話をしてようやく誤解を解くことができた。


「ふーん。なら再会した幼馴染と今同棲してるってことか?」


「そういうこと。弁当の件は朝初めて聞かされたことだったから中身を知らなかったんだ」


「なるほどな。でもラブラブみたいでよかったじゃねぇか」


敬太は誤解が解けるとすぐに祝福してくれた。

こいつはなんだかんだいい奴なのだ。


「本当に俺にはもったいない人だよ」


「結局惚気じゃん」


「客観的に事実を言ってるだけだよ」


敬太は呆れたようにため息をつく。

惚気けたつもりはなかったが敬太的にはアウトだったようだ。


「お前がそんなにゾッコンになるなんてな。いつか会わせてほしいもんだ」


「機会があればな。まぁ結婚式にお前も呼ぶつもりだけど」


「それは嬉しいな。あ、その卵焼き一つ頂戴」


「調子にのるな。絶対にやだ」


友人の理解も得られてなんだかんだ楽しく平和的な昼休みであった。

弁当はもちろん敬太には渡さず美味しく頂いた。

控えめに言って最高の弁当だった。



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