第12話 大好き

「いい買い物ができたな」


「そうだね。今日は楽しかったぁ……」


買い物を終えた車の中で美優はしみじみと呟く。

まだ夕方だがこの日が終わってしまうのが名残惜しい、そんな様子だ。

俺もその気持はよく分かる。

美優との初デートは人生で一度しか無いもんな。


「俺も楽しかったよ。また今度の休日もどこかに遊びに行こうか」


「行きたい……!遊びに行けるようにちゃんと仕事終わらせておくね」


「俺も休日出勤なんてハメにならないように頑張るよ」


美優の表情も少し明るくなる。

俺も次の休日に向けて仕事への気合が入った。

そのまま美優とお喋りを楽しみながら車を走らせること20分ほど。

だいぶ見覚えのあるところまで来たとき俺に一つの考えが浮かんだ。


「少し寄りたいところがあるんだけどいいかな?」


「えっ?あ、大丈夫だよ」


美優に確認を取って帰り道とは少し逸れた方向に向かう。

ここからはそんなに遠くないからすぐ着くはずだ。


「どこに行こうとしてるの?」


「それは着いてからのお楽しみということで」


そのまま車で五分ほど経ったとき。

俺はようやく車を停めた。


「ここは……」


「ああ。俺達がよく遊んでいた公園だよ」


俺が連れてきたのは家の近くの公園だ。

この場所には俺達の思い出がたくさん詰まってる。

俺達の初デートの締めくくりに一番ぴったりの場所だと思う。


「少し歩こうか」


「……うん!」


俺達は並んで公園を歩く。

子供の時はめちゃくちゃ広いと思っていたのに今では少し小さく感じる。

隣を歩く美優も色んなところを見回していた。

そしてあるところを見て美優の視線は止まる。


「ねえ拓哉。あれ……」


「ん?おお……懐かしいな……」


美優が見ていたのはなんの変哲もない小さな砂場。

しかし俺達にとってはとても大切で一生忘れない思い出の場所だった。


「ここで……俺達出会ったんだよな」


「……うん。拓哉が初めて私に話しかけてくれた場所」


「今でも覚えてるよ。あのときのこと」


親に連れられ公園に遊びに来たら砂場で美優は一人で遊んでいた。

その背中はどこか寂しそうで放っておけなくてつい声をかけたんだよな。

何を話していいかよく分からなくて必死に遊びに誘ったのを今でも覚えている。

それで今は未来の妻として横に立ってるなんて想像も出来なかったけど。


「私はあのとき救われたんだ。拓哉が話しかけてくれただけで寂しい気持ちがどこかに飛んでいったの」


「それならよかったよ。救うだなんて大げさだと思うけどな」


俺は美優と並んで砂場のへりに腰をかけ砂場で遊んでいる子供たちを眺める。

美優は子供たちを見つめながら黙って首を横に振った。


「大げさなんかじゃないよ。拓哉がいなかったら私は今でも友達がいなかったかもしれない」


「そんなことないだろ。美優は学校でいつも人気者だったじゃないか」


「話しかけられても答えられなかったと思う。人と話す勇気をくれたのは拓哉だもの」


俺が美優の力になれていたことに驚くと同時に嬉しく思う。

だって美優はどんどん精神的にも強くなっていったから。

俺の手の届かない存在になってしまったように思っていたんだ。


「俺の初恋は美優だったんだ」


「え……!?そうなの?」


「ああ。好きだったけど俺には高嶺の花すぎて想いを伝えることが出来なかったんだ」


情けない話をしている自覚はある。

俺は臆病でフラれるどころか告白すらも出来なかったんだから。

それでも美優は俺の言葉にニッコリ笑う。


「それじゃあお互い初恋なんだね」


「え!?小さいときからとは教えてもらったけど初恋だったの!?」


「そうだよ。気付いたときにはもう好きだった」


まさか美優の初恋が俺だったなんて……

そう考えるとずっと待たせてしまっていたんだな……

申し訳ない気持ちが出てきた。


「拓哉に可愛いって……好きだって言ってもらえるようにおしゃれも勉強したの」


「美優……」


「だからあの日拓哉にプロポーズされた日は本当に嬉しかったんだぁ……」


俺は美優を抱きしめる。

また外で抱きしめてしまったから怒られるかと思ったけど美優は抱きしめ返してくれた。

俺達はしばらくそのまま抱き合う。


「美優……大好きだ」


「私も。昔からずっと気持ちは変わらないよ」


お互いに告白したあと数秒見つめ合い唇をそっと重ねた。

初めてのキスはドキドキと幸せで溢れていて離れたあとも美優の柔らかい唇の感触が残っていた。


「えへへ。私のファーストキス、拓哉にあげちゃった……!」


そう言う美優の顔は満面の笑顔だった。

夕日に照らされたその笑顔は美しくて可愛らしくて目が離せなかった。

我慢できなくてもう一度美優にキスをする。


唇が触れ合うだけの優しいキス。

しかし二人は満ち足りていた。


「俺を好きになってくれてありがとう」


「そんなのこちらこそありがとうだよ」


同じことを言い二人して思わず笑ってしまう。

俺は……絶対に美優を手放さない。

美優の隣に立ち続けて共に人生を歩んでいくんだ。


何十年後かに「いい人生だった」って一緒に笑い合えるように───





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ラブコメ日間4位!!!!!

ラブコメ週間8位!!!!!


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