幼馴染と再会
第1話 お前にこの家やるよ
「拓哉、お前にこの家やるよ」
「……え?」
なんも代わり映えしない土曜日の朝一番、起床してリビングに降りてきた俺はいきなり父さんからそう告げられた。
突然の重大発言にまだ若干寝ている脳が理解を拒む。
「家を譲るって……この家を?」
「そうだ」
「俺に?」
「そうだ」
どうやら聞き間違いではなかったらしい。
いきなり俺に家を譲ると言われても……
「なんでそんなことになったの?」
「元々お前に譲ろうと思っていたんだが父さんは他県に異動が決まってな。ちょうどいいから拓哉に譲ろうと思ったんだ」
それで家を譲るって……
そんな無茶苦茶な話があっていいのか?
いきなり家を貰ってもどうすればいいか困ってしまう。
「私はお父さんについていくからこの家は拓哉の好きにしていいわよ。彼女さんと住んでもいいし管理が大変なら売ってもいいし」
話を聞いていたらしい母さんも会話に入ってきた。
どうやら母さんは父さんと一緒に引っ越すらしく確かに父さんの言う通り家を貰うならちょうどいいタイミングと言えた。
俺が彼女いないの知ってて言ってくるのは面倒くさいけど。
「残念ながら彼女はいない。売る気は無いからとりあえず一人で住むことにするよ」
それにしても困ったなぁ……
この家は一人で住むには広すぎて掃除とかが大変すぎる。
かといってこの家にはたくさんの思い出があるから簡単には売りたくない。
母さんの言う通り彼女でもいれば一緒に住んだり出来るが悲しいことに俺の人生で彼女がいたことはない。
悩む俺に一つの考えが浮かぶ。
「……婚活、始めてみようかなぁ」
思いついたのは婚活という選択肢。
結婚を急ぐ年でもないが別に早すぎるというわけでもない。
これも良い人生経験になるだろう。
俺はそう結論付けて明日近くにある結婚相談所に行くことを決めた。
◇◆◇
翌日、俺は結婚相談所に行くべく駅前に来ていた。
たくさんの店が立ち並び休日だからか人で溢れている。
(昔はよくあいつと一緒に来たてたよな……)
思い浮かべるのは俺の人生でたった一人の幼馴染。
あの頃とは街並みも多少変わってしまっているがたくさんの思い出は色褪せることなく蘇ってくる。
懐かしい気分になった俺は結婚相談所に行く前に近くをブラブラすることにした。
目的地もなく適当にその辺を歩き回る。
十分ほど歩いたとき小さな書店を見つけた。
「懐かしいな……小さな頃はよくここで漫画を立ち読みさせてもらってたっけ……」
昔最も多く通った場所の一つといっても過言ではない。
今は欲しい本があるとネットで済ませてしまったりするが昔は学校の幼馴染や友達と一緒によく来たものだ。
今どうなってるのか気になって店の中に入っていく。
レジに居るバイトらしき人に軽く会釈をして慣れた足取りで漫画コーナーへ向かう。
今でも漫画は読むが子供のときと比べるとかなり減ったため知らない本もたくさんあったが心の中を占める懐かしさと思い出は変わらない。
「何かお探しですか?」
後ろからいきなり話しかけられてビクッとする。
だが声の主の姿を見ると思わず笑顔になる。
「おばあちゃん!久しぶりだね!」
「ん?その声はもしかしてタクちゃんかい?」
立っていたのはこのお店の店主のおばあちゃん。
いつもジュースとかお菓子をくれた優しい人で本当の祖母のように大好きだった。
「覚えててくれたんだね」
「もちろんさね。たくさん来てくれたから忘れるはずないさ」
十数年ぶりの再開に喜び、思い出話や俺の現状の話に花を咲かせる。
おばあちゃんはどんな話もニコニコと嬉しそうに聞いてくれた。
話が一段落したときおばあちゃんが質問してくる。
「最近美優ちゃんとは会っているのかい?」
「あー……実はあんまり連絡できてないんだよね」
話題に上がったのは俺の幼馴染。
違う大学に進学したことで少し疎遠になってから会えておらず就職する頃には忙しくて連絡すらできていなかった。
機会があれば美優とゆっくり話でもしたいものだ。
「ありがとうおばあちゃん。今日は色んな話ができて楽しかった。俺は行くところがあるから失礼するね」
「おや、何か用事かい?」
「婚活を始めるから結婚相談所に行こうかと思って」
隠すことでもないし遠慮することはなくおばあちゃんに伝える。
するとおばあちゃんは少し困った顔になる。
「まったく美優ちゃんがどんな顔をするのやら……」
「え?なんで美優が出てくるの?」
「いーやこっちの話さ。気を付けて行っといで」
最後の言葉は気になったが考えても分からないので諦めて書店を出る。
日は既に高く昇るほど長居してしまった。
気を取り直して結婚相談所に向けて歩き出す。
が……
「あ!あの公園よく遊んでたなぁ……あのお店は部活帰りにいつもなにか頼んでたっけ」
あっちこっちフラフラしすぎたせいで全く辿り着く気配がしない。
思わず今日行くのは諦めようかという考えがよぎってしまう。
だけどあの広い家に一人暮らしは回避したいんだ……!
「あれ?拓哉?」
心の中で葛藤していると人生で親の次に聞き馴染んだ声が聞こえてくる。
この声はまさか……!
「美優……!」
後ろに立っていたのは美しく成長した俺の幼馴染だった。
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午後にもう一話投稿します!
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