第2話 私じゃないとダメ!
道端で美優と出会い数年ぶりの再会を果たした俺達。
美優も休日で偶然歩いていたとき俺を発見したらしくお互い時間があるので近くのカフェに入って久しぶりに話すことになった。
急ぎでもないし結婚相談所は後回しだ。
徒歩15分の距離だったはずなのにもはや何時に到着するか検討もつかない。
「それにしても本当に久しぶりだね」
「そうだね。高校卒業ぶりくらいかな?」
昔と変わらない美優の様子に多少していた緊張が薄れていく。
やっぱり美優は美優のままだ。
そんな当たり前のことを実感して嬉しくなる。
「あれから元気にしてた?」
「うん、元気だったよ。それと私、イラストレーターになれたんだ。大変なことも多いけど毎日が充実してるの」
「イラストレーターに!それはすごいな」
美優は昔から絵が上手くてイラストレーターになりたいとよく言っていた。
楽なことばかりじゃなかったはずなのに夢を実現させるなんて本当にすごいと思う。
「そういう拓哉も大企業に就職したんだよね。おばさんから聞いたよ」
「知ってたんだね。面接受けまくってなんとか今の会社の内定もらえたんだ」
「拓哉は昔から遊んでるように見えて勉強は真剣にやってたもんね。報われて当たり前だよ」
他の人からは『才能』の一言で片付けられることも多かったけど美優は違う。
昔からの付き合いだからこそ俺自身を見てくれているしいつも俺の欲しい言葉をくれる。
多少の期間離れていたがやはり美優と一緒にいるのは居心地が良い。
「そういえば拓哉はなんであそこにいたの?私息詰まったときとか散歩してるんだけど今日初めて拓哉を見たよ」
「ああ、結婚相談所に行こうかと思っていたんだ」
「結婚相談所!?」
美優のクールな表情が崩れる。
美人は驚いた顔も可愛いんだな、とどうでもいいことを考える。
それにしてもそんなにも驚くようなことことなのだろうか?
最近はマッチングアプリとかでの結婚も増えてるような時代だと思うけど。
「そ、そそそそそれって拓哉が結婚するってこと!?」
「まぁ結婚相談所に行くんだからそれが目的ではあるね」
美優は明らかに動揺し少し涙目になっている。
おばあちゃんが言っていたことは本当だったのか。
俺の呑気な気持ちを消し飛ばすかのように美優から食い気味に質問が飛んでくる。
「な、なんで急に結婚!?まだ25歳なんだからそんなに焦らなくても……」
俺からするとなんで美優がそんなにも焦ってるのかが知りたいんだけど。
こんなにも動揺している姿は長い付き合いだけどほとんど見たことがない。
「そう言われるとそうなんだけど。実は──」
俺は興奮気味の美優をなだめていきなり父さんから家をもらったこと、一人暮らしには広すぎるので婚活を決意したことを説明する。
「そうだったんだ……」
「それでちょうど今日結婚相談所に向かおうとしたら美優と会ったわけだね」
美優は納得したようなしてないような複雑な表情をしていた。
美優はクールに見えて意外と顔に出る。
どんな表情も可愛らしくて見ていて飽きない。
「あ、あのさ……いい感じの人とかいたりするの……?」
今にも泣きそうな表情で聞いてくる。
こんな表情をされてしまうと何か悪いことをしてしまったんじゃないかと不安になってきた。
「い、いないよ。今日が初日の予定だったんだ」
「そ、そうだったんだ。よかった……」
「よかった?何が?」
「な、何でもないよ!こっちの話だから……」
あかさまにホッとしたような様子を見せる。
そんなにも俺に結婚してほしくないのだろうか。
流石にモテない俺も一生独身生活は勘弁してほしいのだが。
「そういう美優はどうなんだよ。美人なんだから恋人くらいいるだろ?」
「び、美人……!?」
美優は一気に顔を赤く染め照れたように俺から目をそらす。
美人といった褒め言葉も言われ慣れてるものだろうと思って言った言葉だったけど予想していたより耐性は無かったみたいだ。
美優が綺麗なのは間違いないからちょっと意外だった。
「彼氏なんていないよ。というかいたことない……」
「え!?そうなのか!?」
帰ってきたのは予想もしない答えだった。
昔も今もたくさん告白されてるだろうし美優が告白すれば大抵の男は首を縦に振るだろう。
今はともかく昔もいたことがないとは……
「……うん。そうだよ」
「恋愛に興味が無いとか?」
「そういうわけじゃ……」
つい興味本位で聞いてしまったが恋愛がしたくないわけではないらしい。
良い人が見つからないとかそんなところだろう。
美優ならどんな完璧イケメンでも釣り合うだろうし。
「いつかきっといい人に出会えるさ」
「もう……そういうことじゃないのに……」
そういうことじゃないらしい。
割と良い線行ってると思ったのに。
でも昔と同じだと思っていたけど今日の美優は何か変だ。
正確には婚活の話が出たくらいからか?
「何かあったのか?俺でよければ相談にのるよ?」
「それは……」
美優は迷うように俯いてしまう。
そんなにも言いづらい悩みがあったのか……
無神経に相談に乗るなんて言わないほうが良かったかもしれない。
恐る恐る美優の様子をうかがっていると急に立ち上がった。
「拓哉」
「は、はい……」
「お願い。婚活なんて始めないで……」
「え?」
美優の顔を見ると婚活の話を初めて告げたときよりも目に涙を浮かべていてもはや泣き出す寸前だった。
まさかここまで美優を追い詰めている原因はまさか俺の婚活なのか!?
「で、でもあの家は一人暮らしには広すぎるんだ。俺はあの家を売りたくないけど恋人なんていないから出会いの場に行くしか……」
俺の言い訳のようになってしまった言葉を聞き美優は固まった。
そして10秒後くらいに再び動き出す。
「分かった……拓哉には奥さんが必要ってことだよね……」
「分かってくれたのか!」
幸いにも美優の理解は得られたようだ。
俺が美優の許可を取る必要は本来ないのだがあのような表情を見せられては無理やり婚活に行くなんて選択肢は取れない。
大切な家族のような存在であることには変わりないのだから。
いやー良かった良かった!
「け、結婚するなら私とじゃないとダメ!婚活するなら私でもいいでしょ!絶対拓哉のお嫁さんの座は誰にも譲らないもん!」
一瞬何を言われてるのか全く頭に入ってこなかった。
それが美優からのプロポーズだと気付くまでそう時間はかからなかった。
「………えぇぇぇぇぇぇ!?」
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今日の更新はこれにて終了です!
また明日の午前9時くらいに更新致します!
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