第73話 天界は汚部屋だった
「(えらく久しぶりやな。どや、アキラ。この光景は)」
「うーん、なんだか頭の奥に記憶があるようなないような……なんていうか、目が覚めて少ししてから夢を思い出すような感覚。既視感があるんだけど、記憶が蘇ってこない」
「そうか。まあ、しばらく天界にいたら思い出すやろ。じゃあ中に入ろか」
宮殿の前に車を止め降車した僕たちは
門番の天使に挨拶をする。
「(ワテら、主神様に言われて天界を訪問したんやけど)」
「ああ、伺っております。どうぞ、こちらに」
僕たちは天使の案内で宮殿の中に入る。
「う……」
「(アキラ、なんやこの臭い)」
「ゴミの臭いがする」
「(実際、そこら中にゴミが落ちとんで)」
「スラムとは言わないけど、セリア街のちょっと汚いエリアなみだね」
「驚かれたように、ここ数年、急速に宮殿が汚くなってきていまして」
「なんでなの?」
「宮殿の清浄システムが劣化しているという話です」
「(なあ、アキラ。主神様が天界のあちこちでガタがきているって言っておったが、このことみたいやな。清浄システムって確か魔道具や。管理者は転生する前のアキラやで)」
「ああ、主神様も僕が魔道具の技術者だっておっしゃってたよな」
「(ワテの記憶やと、天界にしろ宮殿にしろええ香りのするところやったはずや。そりゃ、主神様も急がせるはずや)」
「こちらでしばらくお待ち頂けますか」
天使は僕たちを待合室?に残して
部屋を出ていった。
しばらくすると、
「おまたせいたしました。主神様がお会いになります」
再び、天使の案内で謁見室に向かう。
「おお、よく戻ってきてくれた」
主神様は意外に質素な椅子に腰掛けていた。
場所も特別高いというわけではない。
こちらと同じ高さの床であった。
衣服にしても実に質素なものであった。
飾らないお人柄なのであろうか。
「はい、ご要望通り、急いで参りました」
「うむ。どうじゃ、久しぶりの天界は」
「今だ記憶がおぼろげでして。久しぶり、という感慨はありません」
「(ワテはちょっと驚いたで。なんや、えらく汚れとるやないか)」
「ああ、そこなのじゃ。カルマン、今はアキラだったな、を急ぎ呼び寄せた理由は」
ここ数年、急速に天界の魔道具が劣化し、
特に天界の清浄システムが動かなくなったという。
「わかりました。では拝見いたします」
「一応、仮の技術者がおるでの。彼に案内をさせよう」
◇
仮の技術者はジョナサンといった。
彼に案内されて、
システムの集中コントロールセンターに向かった。
小学校の教室程度の2倍程度の大きさの部屋に
所狭しとボタンだらけの機械が鎮座していた。
「この装置で天界の全ての魔道具を集中制御しています。しかし、極めて稼働率の低いことになっています」
「そうですか。ちょっと拝見してもよろしいか?」
「お願いいたします」
僕はその機械の周囲を回ってみた。
そして、ふと目についた大きなレバー。
そこに触れてみると、
「うぉっ?」
なんと、その機械の全容が頭に流れてこんできた。
「(どうしたんや、アキラ)」
「ラグ、この機械、僕が作ったものだ。今、詳細な設計図が僕の頭に浮かんでいる」
「(おお!)」
僕はそのレバーが機械の全てのパーツに
神経を張り巡らしていった。
「なんだこれは?」
人間の体で言う神経細胞のようなパーツが、
ところどころ断線している。
更に機能を司るパーツが異常に肥大化していた。
「異常は把握した。今から修復作業に取り掛かる」
僕には何をすればいいのか、
すぐに頭脳がそして指先がわかっていた。
まずは、パーツごとに電源をきり、
修復イメージを機械に送り込むと、
次々と機械が修復されていった。
「ふう。これで全回路の故障箇所は治ったと思うんだけど」
僕は機械のリブートを図った。
「おお」
先程よりも灯りが強くなった。
そして、エアコンディショナーが稼働し始めた。
爽やかな空気が部屋にいきわたるとともに、
部屋の隅に吹き溜まっていたゴミが消失し、
床・壁・天井の汚れが取り除かれていった。
と同時に、僕には魔道具師スキルが発現していた。
◇
「おお、よくやってくれた!あっという間に宮殿がキレイになったぞ!」
正直言うと、天界の人たち、
自分たちで掃除しないの?とは思わなくもない。
「私の記憶では、この機械は簡単に壊れるようなものではありません。それに、自己修復機能が搭載されており、これほどのダメージを受けていた理由に見当がつきません」
「うむ。これに関しては調査を担当したものが黄泉の国からの呪波を観測しておる」
「黄泉の国からの呪波?」
「うむ。そなたらをこの天界から吹き飛ばした力の一部という話じゃ。おそらく、そのときの力が残存しておったのではないか、というのが彼らの見解じゃ」
「ふーむ、となると黄泉の国から再侵攻ということもあるわけですね?」
「うむ。それに関しては以前よりも遥かに厳しい守備体制をとっておる。しかしの、黄泉の国の位置がはっきりせんのじゃ。以前はわかっておったのじゃが、奴らは場所をこっそりと移動しておるみたいでの」
「そうなんですか。とにかく、私は定期メンテナンスをしたほうがいいですね」
「ああ、よろしく頼む」
「では」
◇
「(黄泉の国って、セリア街領主が呼び出した暗黒の力の源やないか。なんや、まだ因縁がつづいておるんか)」
「うん、なんだかすごくモヤモヤするよね。僕たちを天界から吹き飛ばした張本人だし」
「(相手の場所がわからんという話やから、こちらからどうこう、とはいかんで。待ちの一手しかなにのが辛いとこやな)」
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