第70話 女神のご宣託2

「(てか、姉ちゃん。さっきからなんや。おかしな喋り方して)」


「おほほほ、なんのことかしら。不思議なことを言ってはいけませんわ」


「(姉ちゃん、そんな気取ったしゃべりやなかったやろ。ワテとおんなじやったやないか)」


「うるさい。このアホ。ウチは清浄の女神やさかい、頑張っとるんや」


「(ああ、それや。安心したで)」


「ということで、私も清浄の女神を退任できそうですわ。おほほ」


「(せやで。姉ちゃんが清浄の女神って、なんの冗談や。本当に人材不足なんやな)」


「うるさい。黙れゆーたやろ」


「いや、退任とか。だいたい、都合良すぎますでしょ。僕たち3人が一つの場所にまとまってるなんて」


「そんなに不思議でもありませんわ。そもそも、パステト、この世界ではラグですか、とカルマン、この世界ではアキラですか、は親友だったのですよ。そして、ティーナ、シスタールシーナとカルマンは夫婦だったのですよ」


「え」「まあ」


 僕とシスターは顔を見合わした。

 シスターは顔が真っ赤だ。


「僕とシスターが夫婦?なに、その素敵設定」


「二人共転生して記憶がなくなっているのですね。でも、二人は見えない糸で結ばれています」


「(せや。アキラはその糸を手繰ってこの世界にやってきたんちゃうか)」


「じゃあ、ラグは」


「(ワテはそのついでか?)」



『ティーナ、カルマン、パステト。久しぶりじゃの』


「ああ、その御声は主神様!」


 ホログラフの女神はひざまずいて祈りを捧げる。 


「主神様?」


 俺達3人もあわてて跪いた。


『よいよい、楽にせよ。いなくなった3人をようやく探し当てられてワシも何がおきたか把握できたぞ。カルマン。おまえの車が3人をひきよせたのじゃ』


「車が?」


『そうじゃ。記憶がないようじゃが、おまえはもともと天界の魔導具を管理するものじゃ。じゃから、おまえが車を無意識に魔導具化して、転生先からこちらの世界に転移してきたのじゃ。天界関係者、特におまえの配偶者を見つけられるようにな』


「え?じゃあ、キャンピングカーとかチェーン店メニューとか銃座とかは……」


『詳細はワシもわからんが、おまえの趣味じゃろ』


「はあ」


 とにかく、主神様の説明によると、

 僕はシスターを探しにこの世界に転移してきたと。

 しかも無意識に。

 そして、シスターやラグを見つけたのは、

 この車の機能に盛り込まれていたからだ、と。


 うーむ。

 この世界に転移してきたとき以上に

 理解不能だ。


 というか、恥ずかしくてシスターに顔を

 向けられないんだけど。



『とにかくじゃ、3人とも天界に戻ってほしい。パステトはともかく、2人には大切な仕事が待っておるのじゃ』


 ああ。

 僕もなんとなく思い出した。

 パステト、ラグは天界のいたずらっ子で、

 あまりにも悪戯がすぎたから、

 主神様がラグを猫の形にしてしまったんだ。


「(あちゃー、カッコ悪いことをワテも思い出したわ。主神様、はよ、元に戻してーな)」


『ならん。お主はあと1000年、その格好のままじゃ』

 

「(がっくり)」


『ただ、その二人の手伝いをして世の中のためになるようなら、期間は半分にしてやろう』


「おお、主神様、話がわかるお方や。勿論や。今までだって、ワテ、頑張ってるさかいにな」



「主神様」


『なんじゃ、ティーナよ』


「私も急なお話でとても戸惑っております。ただ、私にはこの世界でやり残していることがたくさんございます」


『うむうむ、そうじゃの。とりあえず、その世界で一つの目処がついたらでええ、天界に戻ってきてもらえんかの。特に、カルマン。おまえは早急に戻ってきて欲しいんじゃが』


「私がですか?」


『そうじゃ。お主は天界の魔導具の管理技士じゃ。ところがおまえがおらんようになって、天界のあちこちでガタがおきておる。その車に天界との転移機能をつけて地上と天界の2つで頑張ってもらうわけにはいかんかの?』


「もったいないお言葉。とにかく、一度、天界に参りたいと存じます」


『うむ、待っておるぞ。では』



「ということなんだけど」


「ごめんなさい、私、何がなんだか」


 それは僕も同じだよ。

 特に、このシスターと僕は夫婦だったって?

 心臓が飛び出るほど嬉しすぎるんだけど。


「あーあー、何かいい雰囲気のところすまないのですけれど、私からカルマンにお願いがあるのですが」


「はい、女神様。なんでしょう」


「すみませんが、内緒話なので、もう少し近くに」


「(はい)」


「(実は、あなたの提供するスィーツなるもの。私もほんの少しでいいから味わってみたいのですが)」


「(ああ、かまいませんよ。どうすればいいのですか?)」


「(そうですか!祭壇に供えてもらえば、天界に転送されますので……)」


「(じゃあ、毎週供えましょうか?)」


「(まあ!なんという嬉しい申し出を!遠慮はいりません。毎日でもいいですわ!)」


「(ねえちゃん。ずうずうしいで)」


「(うるさい。このアホ。ちょっと黙っとき)」


「(ティータイムにお供えしときましょう)」


「(ああ!ああ!最初は苺のタルト、ホールとあずきみるくフラッペを!)」


 あずきみるくフラッペはマ◯クの期間限定スィーツだ。この女神様、どんだけ詳しいんだ。

 しかもタルトをホールって。


「(ねえちゃん……)」

 

 ラグも呆れ顔だ。


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