第67話 領主戦1

「あの馬鹿者め、しくじりおって」


 領館2階の窓際にて領館を取り囲む群衆を見下ろしつつ、領主は呪詛の言葉を吐き続ける。


「それにしても、下層民が生意気にも大騒ぎしておる」


 領主一族は古くからとは言えないかもしれないが、

 それでも貴族として陞爵してから100年以上は

 この地の支配者として君臨してきた。


「この地の王である私に向かってなんと無礼なことを」


 王国での地方領主は、その地方では王に等しい。

 

「よろしい。その報いをあの下劣な奴らにお届けしよう」


 領主はこのところの不祥事の重なりで

 ストレスがマックスであった。

 ただでさえ、無駄に高いプライドがあり、

 自分が蔑ろにされるのが受け入れられなかった。


 もう、普通の思考ができない。

 領主は窓をあけ、長々とした詠唱に入った。


「彼我の差を思い知れ!インフェルノ!」


 これは最上級火炎系攻撃魔法である。

 広範囲にわたり灼熱火炎地獄にする。

 領館を取り囲む群衆に紅蓮の炎が襲い掛かる。


「ふふふ、ウジ虫どもよ、焼き尽くしてしまえ!」


 領館の周りは業火につつまれた。

 領館には強固な結界がはられているため、

 平穏のままである。


「お、そろそろ火が衰えてきたな。どうだ……何?」


 領館は驚いた。

 そこには魔法を唱える以前と同じく

 領民がドンちゃん騒いでいるではないか。


「なんでだ?結界のために威力が落ちたのか?」


 領主は攻撃魔法については大得意である。

 それに対して、結界魔法は不得意である。

 そのため、結果魔導具を使用しているのだが、

 ケチなためと自分の攻撃能力に自信があるため、

 性能の落ちるものを使用していた。


 一言で言えば、結界のコントロールが雑なのだ。

 だから、内側から攻撃魔法を放つと、

 威力が半減してしまう。


「威力が落ちるのは承知しておる。だからといって、奴らがまるで無傷なのはどうしてだ?」


 

 抗議にかけつけた領民。

 彼らには猫結界がはられていた。

 しかも、その結界をラグが補強していた。


 領主の攻撃が十全ならば

 猫結界も危なかったかもしれない。

 しかし、威力の半減した攻撃など、

 猫結界には敵ではなかった。



「おい、見たか。領主の野郎、俺達を皆殺しにしようとしたぞ!」


「俺達は抗議してるだけだ。説明を求めているだけだ。それに対してなんて非道なことを!」


「それにしても森の守り神様の結界の凄さよ!」


 領民のボルテージはますます上昇した。


「なあ、ラグ。この館の結界、どうにかならんか?もうはっきりと対決したほうがいいんじゃないか?」


「(うむ。ちょっとな、領民たちを下げよ。ワテが結界をキャンセルしてやるわ。ただな、領主の攻撃がまともに降り掛かってくるかもしれん。領民には防御に徹するようにな)」


 俺はこの抗議活動を主導する街のリーダーたちに

 ラグの言葉を伝達する。


「おーい、とうとうラグ様がお怒りになるぞ。みんな、下がって各自防衛に専念しろ!」



 領民が十分に下がったのを見計らって、


「(結界魔法キャンセル!)」


 すると、バチバチという音に続いて、

 轟音とともに結界が崩壊した。


「(続いて、詠唱キャンセルドーム!)」


 霧のような光が領館に降り立った。



「下民共が結界を消し去ったと?なんて生意気な。よし、私の100%の魔法を味わうが良い!インフェルノ!」


「あれ?インフェルノ!インフェルノ!」


 領主が何度叫ぼうとも、魔法は一向に発動しない。

 ラグの詠唱キャンセルは

 領主クラスの魔法詠唱にも効果があるのだ。



「ふざけた真似を……こうなってはやむをえまい。急いで地下室へ!」


「(アキラ、領主の魔法は防いだで。館に踏み込むぞ!)」


「よっしゃ!」


 俺達は魔猫の結界をきつくかけて、

 急いで領館の玄関扉に手を掛けた。


 だが。


「うわっ」


 突如、領館が爆発した。


 俺達は爆風で吹き飛ばされてしまう。


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