第65話 孤児の奴隷商人1
「エリーとレミーが帰ってきません」
「そうなの?心配ね。あの子たち、普段は出歩かないのに」
孤児院のある晩の出来事だ。
夕食時になってもエリーとレミーが帰ってこない。
二人はいずれも10歳の女の子で、
めったに外出しない。
「探しにいきましょう」
「どうしたんですか?やけにバタバタしてますけど」
「あ、アキラ様。うちの子供が二人帰ってこないんですよ。普段は出歩かない子達なんですが」
「ふむ。それはちょっと心配ですね。僕の方でも捜索隊を出してみましょう」
セリア街はこの世界では治安がいいとされる。
それでも、日本とは比較にならない。
夜になると人々は外出しなくなる。
強盗や誘拐も頻繁に起こるのだ。
「ああ、助かります。お願いします」
「猫部隊を展開しますので、子どもたちのきている服かなにか体臭のついたものがありませんか」
魔猫は臭いに敏感だ。
ついでにいうと僕も五感が発達してきているけど、
僕が子供の臭いを嗅いだりしたら事案だ。
「これです。お願いします」
「じゃあ、猫諸君。君たちの能力の一端が生かされるときがきた。この臭いをたどって、子どもの捜索をしてほしい」
というようなことをラグを通じて伝えてもらった。
「終わったら、チュールマシマシ。見つけたものには不◯家のレアチ-ズケーキ」
「ウニャ!」
猫たちの一番の好物はチュールだったんだけど、
最近そのトップの座から滑り落ちた。
一番は不◯家のレアチ-ズケーキ。
食べると目を見開いてフリーズし、
腰がぺったんするぐらいに脱力してしまう。
◇
「(アキラ、子どもたち見つかったで)」
「おお、さすが魔猫軍団。で、どこにいるんだ?」
「(奴隷商人の館やそうや)」
「え?なんで?」
「(うーむ、誘拐されたか?)」
「いや、とんでもない犯罪じゃないか」
この世界には奴隷制度がある。
犯罪奴隷、借金奴隷、戦争奴隷。
この3つが主な奴隷の形態だ。
犯罪奴隷はいわば懲役制度の民間版。
借金奴隷は貧民のセーフティネット。
この世界では自力救済が基本である。
人身売買は餓死を逃れるための
最後の手段であった。
日本でも身売りは普通に行われていた。
丁稚制度とか娼館は広義の奴隷制度だろう。
近年でも外国人研修制度が奴隷制度じゃないか、
と疑いをもたれているという。
戦争奴隷は現在ではほぼいなくなっている。
身代金と交換されるためだ。
ただ、王国では奴隷と言われて思い描くような
ひどい扱いをうけているわけではない。
たいていは、わりと人道的に扱ってもらっている。
口幅ったい言い方になるが、
高い金を出した奴隷を乱暴には扱わない。
王国では法律も整備されている。
無論、誘拐して人身売買は違法である。
捕まれば極刑に処せられる。
「すぐに助けにいくぞ。ラグ、準備はいいか?」
「(いつでも)」
僕たち二人にとって救出劇など簡単である。
何しろ、気配を遮断できる。
ステルススキルがあるのだ。
人質の開放、奴隷商人スタッフの捕縛、
思いのままである。
「えーん、怖かった」
泣きじゃくる孤児の二人。
だけではなかった。
奴隷商人の地下にある牢屋には
数多の子どもたちが閉じ込められていたのだ。
「おい、これはなんだ?」
「いや、なにかの間違いです!私どもは法律にのっとった公明正大な商売をこころがけておりまし……ゲフ!」
奴隷商人の腹を蹴ると地面にうずくまった。
そして、あまり大声で言えないようなことを
奴隷商人たちに施していくと、
すぐに奴らはゲロった。
「申し訳ございません……領主様の命令でして……」
古くから子どもの誘拐は行われてきたようだ。
それが発覚しなかったのは、
誘拐を引き受けてきた『闇の組織』が
正体を表さなかったからだ。
闇を暴こうとすれば『闇の組織』が
秘密裏に処理する。
ところが、『闇の組織』が壊滅している。
現在、違法な人身売買が停滞している。
しかし、闇の組織は壊滅した。
だが、子供は必要だ。
そこで、慣れないものが犯行を犯したのが
今回の件であった。
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