第64話 薬師ギルドを潰された領主2

 冒険者ギルドが発売している消毒薬。

 実質、回復薬。

 清貧教会の治療に使う回復薬。

 おそらく同じものだろう。

 その性能が薬師ギルドの回復薬と同等か

 それ以上と言われている。

 

「私も使ってみた。確かに高性能の薬であった。傷口にしみることが欠点だが。しかも、格安だ。薬師ギルドの薬とは比べようがない。初級回復薬だと100pだ。薬師ギルドだと1万p。100分の1の値段。中級・上級も100分の1の値段だ」


 性能で上回り、値段は馬鹿みたいに格安だ。

 そりゃ、誰でも新薬に飛びつく。



「しかもだ。野草茶なる飲み物。多くの病気の初期症状を治すという。特に風邪だとほぼ即時に治る。腹立たしいことに私の家族もこぞって愛飲している。やめよといっても聞きやしない」


 驚くことに野草茶以上に高性能な薬があるようだ。

 この薬については秘匿されていて

 前面にでてこない。


 しかし、巷ではすっかり有名になっている。

 特に、清貧教会。

 シスターの奇跡の薬として。


 話によると、清貧教会の門前にお参りする領民が

 増えているという。

 門前でお祈りするだけでも病気が治るといって。

 シスターの神格化が激しい。


 シスターの神格化とともに浮上しているのが、

 清貧教会にいる猫の神格化だ。


 もともと『森の守護様』と言われて

 王国の信仰の対象となっていた。


「たかが、薄汚い山猫。信用できるか」


 領主の認識はそうだった。


「はっきりいって、奴らの薬は実質的には薬師ギルドの縄張りに思いっきり踏み込んでいる。ところが、今までにない分野の新薬だとか、教会の治外法権に守られているとか、微妙に文句をいいにくい」


「しかも、製造にドワーフが絡んでいやがる。そうなると、薬師ギルドでは手に負えない。薬師ギルドよりも上位の組織、つまり王国レベルで話し合いが必要だ」


 表向きは薬師ギルドの薬に抵触していない。

 微妙に薬師ギルドを回避している。

 奴らの薬は灰色の薬であることがややこしい。


 そこを無理やり問題化すると、

 ドワーフと敵対化することになる。

 王国中の武具の供給が止まる。

 死活問題になる。


 ドワーフの武力もかなりのものだ。

 ドワーフは温厚な人種だが、

 いざというときの攻撃力は非常に高い。

 昔、ドワーフに挑んだものがいたが、

 一方的に敗れ去っている。

 ドワーフに対しては敵対しない方向でいるのが、

 王国でのコンセンサスだ。



「湖畔村も腹立たしい。準男爵の件でも私に恥をかかせている」


 湖畔村は野草茶の製造元だ。

 だが、野草茶は別段薬と銘打っていない。

 単なる健康飲料程度の位置づけだ。

 文句をつけにくい。


 しかも、武力については準男爵の件でお墨付きだ。

 私が出張ればおそらく村を壊滅できるだろう。

 しかし、壊滅してどうする。

 野草茶の製造を手に入れなくちゃいけないのに。


 しかもだ。

 村と武力対決した場合、

 こちら側の損害も無視できないだろう。

 何しろ、あの準男爵を一方的に破りさったのだ。



「私のとっておき、『闇の組織』も活用した。奴らは金がかかるが、確かな結果を残してきたからな」


 結果は?

 通称『闇の組織』が壊滅した。


「おかげで王国の非合法部門が回らなくなっている。当然、私のもだ。私の非合法部門。私の収入の3分の1を占める。そこのタガが外れかかっている」


 現状では闇の組織壊滅の手当をする必要がある。

 非合法部門の立て直しを図り、

 薬師ギルドの穴埋めをしなくちゃいけない。



「くそったれ。私のケツにも火がつき始めている。思い切った策にでるか」



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