第60話 チェーン店のメニュー凌駕プロジェクト3

 僕は製粉について、農民のジョルジに説明する。


「はあ、表皮だけ取り除いて加熱処理して青臭さを抜き、微粒粉砕しろと」


「ああ、そういう行程を加えたいんだけど。ついでに、ふすまの脱色もね」


「多分、できると思いますけど、ちょっと訓練が必要ですね」


「魔導具にできそう?」


「いけると思います。ちょっと大がかりになるかもしれませんが」


 【農民】のスキルには魔導具作成がある。

 料理人が唱える魔法を魔導具に転写するのだ。

 製粉行程を魔導具にしようと考えているのだけど、

 ゴミや小石、或いは未成熟の粒を取り除いたり、

 ふすまを分離処理したりいろんな行程がある。


 彼の魔導具作成は製粉機だけじゃない。

 耕運機、播種機、除草機、刈取機、

 肥料や防虫剤、除草剤、品種改良など

 多岐にわたる研究をこなし始めている。


 もちろん、彼一人じゃない。

 農業経験豊富な村民や魔導具師、薬師

 などと協力して研究開発を進めている。


 

「【農民】スキルが凄い、って話はよく聞いたけど、ジョルジ一人がいるだけでこれだけ生産量が違うってのは信じられんよ」


「いや、僕だけの力じゃないですよ。そもそも、僕はただの子供だったし、農業のことなんて何にもしらなかったんですから。でも。ラグ様はじめ皆さんのご指導・ご協力があればこそ、ここまでやれたと思います」


 おお、ジョルジもなかなか大人の発言を。

 でも、実際にそうなんだろう。

 【農民】職業を得た農地は豊作になる、

 というのは常識だ。

 でも、湖畔村の収穫量は【農民】だけでは

 説明がつかない。


 何しろ、小麦生産量は、

 過 去 1~1.5t/haだった。

 これが、

 初年度 3t~

 2年目 5t~

 3年目 7t~

 と激増したのだ。


 しかも、魔導具のおかげで省人化している。



 この魔導具、各所から引合いが多い。

 特に、製粉機。

 

 王国では武具以外の魔導具があまり流行らない。

 魔導具自体が高額なのに加えて、

 魔石が高いんだ。

 出費に対してのリターンを考えると、

 なかなか魔導具に投資しようという気が起きない。


 ところが、製粉機。

 ふすまの処理という手間を加えただけで

 小麦粉の味が随分と向上したのだ。


 さらに、ふすまを取り除くこともできる。

 風味を加えるため少量のふすまを残した小麦粉は

 味も食感も最高のものに仕上がる。

  

 【農民】や【魔導師】であれば

 それを自分たちでも再現しようとするだろう。


 【農民】たちがいなくても、

 資金さえあれば最高級の小麦粉が得られる。



 製粉機はドワーフ村で製造販売することになった。


「酒に続いて商売のネタを持ってきてくれて本当に有り難く思うんだが、お陰様で眠れてねーよ」


 湖畔村の農業開発チームもブラックに陥っている。

 ドワーフのドレインも目の下にクマを作っている。

 それでも彼らは楽しそうだ。


 僕たちでも仕事ならあれだけど、

 ゲームなら徹夜が苦にならないというか、

 寝るのがもったいなくなるもんな。

 彼らには仕事は仕事じゃないんだろうね。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る