第52話 孤児たちの成長2
「(なあ、アキラ。ワテはちょっと思うところがあるんやが)」
ある日、ラグがそういい始めた。
教会の孤児を湖畔村で修行させたいらしい。
孤児の成長はラグにも好感を与えているようだ。
「(普通の人間は森はおろか、湖畔村の環境でも魔素濃度がきつすぎるんや。魔素酔で使い物にならへん)」
僕もこの世界に来た当初は酷い魔素酔に往生した。
「(せやけどな、キャンピングカーのメニューは人間を一つ上の段階に成長させとる。人を魔素に馴染ませる助けをしとるんや。どや、孤児たちをもっと成長させてみんか?)」
つまりは孤児たちも魔素に馴染ませて
魔人に近づいてもらう、ということか。
「(せや。魔人っていうとなんやおっかない響きがあるけどな、魔素に強い人間っていう意味や。強化された人間になるということや)」
「これは、みんなに聞いてみようか。希望者だけでもいいんじゃない?」
◇
孤児たちは全員賛成した。
だけじゃなく、教会の職員にも希望者が現れた。
「うげー、気持ちわりぃ……」
さっそく、第一陣を村に送り込んでみた。
魔素酔でダウンするものが続出する。
「やっぱりいきなり村に連れてくるのはきっついですか」
「山の中に合宿所を作りますか」
山の中というのは、村から街への間に横たわる
山というより丘というべき低い土地のことを言う。
ここは村よりも魔素濃度が低い。
「あー、ここなら我慢できる」
「うん、ちょっと頭が重い感じがするだけ」
村からそのまま子どもたちを連れてきた。
「いいみたいですね。じゃあ、ここらに合宿所を作りましょう」
木材は大量にある。
昨年襲来した魔狼騒ぎのときに柵を作った。
あの時に集めた木材を乾燥させているのだ。
基本は天然乾燥だけど、一部風魔法を使って
乾燥を急がせている。
なお、土魔法で壁を立ち上げることもできる。
しかし、壁に魔力を通じさせる必要がある。
魔力が消えると壁は崩れてしまい、
緊急時以外には使いにくいのだ。
一ヶ月ほどで合宿所と広めの庭を作り上げた。
ここで体を魔素に馴染ませ、
問題のないものから村へ向かわせる。
この魔素に馴染ませる、という作業。
簡単ではない。
普通の人間の大半は投げ出すことになる。
無理すれば命に関わることもあるのだ。
そうでなければ、
今頃どんどんと人間は森に進出している。
村人が半魔人となっているのは伊達ではない。
この難儀な取り組みを後押しするのが、
チェーン店メニューだ。
僕もこの世界にきた時は酷い魔素酔に悩まされた。
しかし、いつの間にか魔素酔をしなくなった。
魔人に変化したものと思われる。
推測だけど、環境に馴染ませる力が
メニュー食品には強いのだろう。
いや、メニュー食品には様々な力がある。
魔力を向上させたり、体調を整えたり。
職業の発現は教会の頭をかかえさせている。
まさしくスーパー食品なのだ。
目的は僕を新世界に馴染ませるためかもしれない。
つまり、今いるこの世界。
いろいろ地球と環境の違う新世界。
合わなくてダウン、などというのは困る。
僕をこの世界に連れてきた存在、
そんなものがいるのなら、という話だが、
が用意してくれたものだと思うことにする。
◇
さて、この修行。
現時点で半年ほどたった。
第一陣は完璧に村の環境に馴染んだ。
「すっげーぜ。いろいろ力が増えてんだよ」
などというあらっぽい喋り方をするのは、
あのスリ娘である。
よく見ると、かなりの美人なのであるが、
全く身の回りに気をつかわないのと、
非常にガサツな喋り方で女にはとても見えない。
「見なよ、力だけじゃなくて、魔法も凄いんだぜ」
彼女は力というよりも、魔法力に凄い伸びがある。
彼女の授かった祝福はなんと大魔導師である。
大がつくのだ。
ぐんぐんと魔力・魔法力を向上させている。
13歳ながら、中級4属性魔法は全てをマスター。
今は上級魔法に取り組んでいるところだ。
おそらく早晩いくつかものにするだろう。
彼女の特徴は頭脳がずばぬけて明晰なことだろう。
もともと地頭がいいというか。
そこに祝福の力が加わった。
「でもなー、魔法が使えてもどうすんだ?まあ、防衛とかには役立つけど」
などと身も蓋もないことをいう。
通常であるならば、王国軍とかに所属して
出世を目指す。
しかし、彼女にその気はまったくない。
嫌っているといってもいい。
その話をすると本当に嫌な顔をする。
根っからの自由人なんだろうか。
去年のように魔狼軍がやってくることもある。
準男爵や輩に襲われることもあった。
今後はより凶悪な事態に襲われるかもしれない。
その時の戦力として、うまく育って欲しいものだ。
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